出版社内容情報
暗愚と疎まれた将軍の、比類なき深謀遠慮に迫る。口が回らず誰にも言葉が届かない、歩いた後には尿を引きずった跡が残り、その姿から「まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ馬鹿にされた君主。第九代将軍・徳川家重。しかし、幕府の財政状況改善のため宝暦治水工事を命じ、田沼意次を抜擢した男は、本当に暗愚だったのか――? 廃嫡を噂される若君と後ろ盾のない小姓、二人の孤独な戦いが始まった。
内容説明
口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろと呼ばれ蔑まれた君主がいた。常に側に控えるのは、ただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫。麻痺を抱え廃嫡を噂されていた若君は、いかにして将軍になったのか。第九代将軍・徳川家重を描く落涙必至の傑作歴史小説。
著者等紹介
村木嵐[ムラキラン]
1967年、京都市生まれ。京都大学法学部卒業。会社勤務を経て、95年より司馬遼太郎家の家事手伝いとなり、後に司馬夫人である福田みどり氏の個人秘書を務める。2010年、『マルガリータ』で第十七回松本清張賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
342
第170回直木賞候補作第五弾(5/6)、村木 嵐、初読です。今年の歴史小説No.1の感動作でした。しかし「まいまいつぶろ」がそう言う意味だとは・・・ 徳川 家重は、現代のホーキング博士のような存在だったのではないでしょうか❓ 第12回 日本歴史時代作家協会賞作品賞&第13回 本屋が選ぶ時代小説大賞の二冠および直木賞候補作も納得、今回直木賞受賞作が二作の場合は、本書とその他の現代小説だと思います。 https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344041165/2023/12/21
パトラッシュ
285
まいまいつぶろと周囲から揶揄されるほど重い身体障碍者の徳川家重が将軍たり得たのは、その意思を理解し伝えられる大岡忠光がいればこそだった。権勢を誇って汚職三昧も可能だった忠光だが、忠臣として家重に献身した君臣一体の理想像として描いていく。健常者である幕閣は家重を蔑んで悪だくみをするが、頭脳は聡明な家重は忠光の補佐よろしきを得て郡上一揆の真相を解明し、田沼意次を登用するなど父吉宗に劣らぬ政治的実績を残せた。強い孤独に苛まれる権力者が真の友を得た友情と信頼の人間讃歌であり、読後感のよい良質の歴史小説に出会えた。2023/07/23
タイ子
203
なんという胸を打つ物語なんだろう。9代将軍徳川家重、手足が不自由、話す言葉も聞き取れない、長く座っていると尿を漏らしてしまう。そんな彼が14歳の時、16歳の大岡忠光と出会い将軍の座へと昇りつめる。通詞として影のように寄り添い家重の言葉を伝えることの難しさ。人はどうしても忠光の思いも含めての言葉として受け止めかねない。しかし、生涯忠光は通詞としてのみ仕える。家重が妻を娶り幸せに暮らし始める件がいい。幸も不幸も訪れる中、忠光の存在がいかに大切だったのか。終盤は涙なしには読めない。二人の出会いが時代を変えた。2023/12/13
やっちゃん
180
徳川家重というニッチな人物が主役なのもあって興味深く読めた。時折ミステリらしくなったけどそこはまあ雰囲気だけでちょっと焦らされた。淡々した展開だけどそれでも良いヒューマンドラマでした。夫婦もそうですが良いタッグパートと歩む二人三脚の人生っていいですね羨ましい。2024/04/06
いつでも母さん
175
「もう一度生まれても、私はこの身体でよい。忠光にあえるのならば」何度もほろっとして読んで、この言葉に出会ったら号泣せずにはいられない。嗚呼、好い作品と出会った。好きでこの体に生まれた訳じゃない。八代吉宗の嫡男でありながら廃嫡を噂され蔑まれる理不尽。たった一人言葉を聞き分け小姓として『御口』として、その生涯を捧げた忠光の背負う荷の何と大きく重いことよ。誰が出来得るだろう・・こんな主従関係があったのだなぁ・・ただただ頭が下がる。今頃だが本当に胸を打つ超お薦めの作品だった。2024/03/30