出版社内容情報
後に「大谷崎」と呼ばれた作家が、古典主義的作品を書いて作風を大きく転回させた時期の創作です。この時期谷崎は、のちに妻となる女性との恋愛に心身を傾注しており、この二編、とりわけ「蘆刈」にそれが色濃く反映していることは、自身が述べているところです。「春琴抄」に見られる創作としての風格、「蘆刈」の夢幻のような世界、いずれも谷崎の豊熟期の傑作で、主人公の女性の造形には恋人の影像が、会話が地の文になだれ込む文体には『源氏物語』などの古典の強い影響があります。その古典の素養ある女性との恋愛と結婚を経て谷崎は、これら古典主義的作品群の上に、『源氏』の現代語訳を手がけ、作家としての力量とエネルギーをいや増しに身に着けて、『細雪』を書いてゆくことになるのです。
目次
「春琴抄」「蘆刈」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白のヒメ
53
「春琴抄」盲目の愛。それが一体どんなものなのか。文字通りの物語の流れと共に、文字では言い尽くせない魂の真理を知る。失うことで得る。それは一つの悟り。佐助は光と共に春琴を見失うことで、自分の中に本当の春琴の姿を見つけたのだ。結局、究極の愛は誰の存在も必要としない。自分と自分の中の相手がいればよいのだ。しかし、耽美な小説だなー。目に針のシーンはぞくぞくする。想像たくましくすれば、相当淫靡でもある。 2015/04/21
hirokikojima0721
11
大阪山崎にある、3代目のとあるうどん屋に行きこの小説を知った。 恐らく谷崎潤一郎ご本人が川の中洲で擬似体験したことを書いたのであろう。 酒と唄と女の話が月明かりに幻の様に流れ、男と女の想い、繋がりを物語にした作品だ。 その月見散歩の出発地が、そのとあるうどん屋である。2020/02/22
うりぼう
5
松葉先生から頂く。読みやすくなっていました。どちらの短編も人の愛の形は一つではないことを教えてくれます。愛は、子どもすら埒外に置くのですね。2009/10/28
Ai
3
性格がどギツい春琴と、忠義を尽くす佐助のやりとりは、ヒヤヒヤする場面が多いが、物語の中で描かれていない二人だけの場面を想像すると、なかなかにエロティックでした。 2017/06/13
Masataka Shindo
0
恋愛とは互いに夢を見ること。生きながらに彼女に夢を見続けた佐助は、現実に夢を見ている点で複雑な存在だったが、遂に盲目になることで真に彼女と結び合える。夢を夢見た男のその深き愛情が恐ろしくも思える。2013/05/29