内容説明
なぜ人はアーティストになりたがるのか。なぜ誇らしげにそう名乗るのか。その称号をもてはやすのは誰なのか。「誰かに認められたい」欲求によって“一億総アーティスト化”した現在、自己実現とプロの差異とは一体どこにあるのか。美術、芸能、美容…あらゆる業界で増殖する「アーティスト」への違和感を探る。東京都青少年健全育成条例問題、アート解説本の需要増加等、最新事情を記した論考を追加。
目次
はじめに―一枚のチラシから
美術家からアーティストへ
アーティストだらけの音楽シーン
芸能人アーティスト
『たけしの誰でもピカソ』と『開運!なんでも鑑定団』
職人とクリエイター
「美」の職人アーティスト達
私もアーティストだった
「アーティストになりたい」というココロ
著者等紹介
大野左紀子[オオノサキコ]
1959年、名古屋生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。1983年より2002年まで美術作家活動を行う。現在、名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夜間飛行
89
アーティストと呼ばれたがる人の自意識を主に論じている。前半は人の内面(感情や願望)を推測しすぎて、客観性を欠くように思えてしまった。『誰でもピカソ』の例でいうと、著者が頻りに言うアートバトル出場者の自尊心や承認欲求が私はほとんど気にならず、それよりも次々とくり出される奇天烈なアートや、それに対するクマさんら審査員の個性的な評価を愉しんでいた。そんな私からするとアーティストの内面暴きに徹する著者の見方はかなり特殊に思えてしまう。後の方を読むとその特殊性がある程度理解できるので、本の構成を逆にしてほしかった。2019/03/17
ヒロミ
62
著者は東京藝大を卒業した元「アーティスト」。ミュージャンでも美容師でも何でもアーティストと呼ぶのは常々気持ち悪さを感じていたので、そこら辺は腑に落ちる感じだった。ただ、作品を発表したらいちいち言葉で説明(何故これを描いたのか?)が求められるという点は著者に同意出来かねる。「好きだから」と答えた生徒に呆れたという場面では逆に呆れた。言葉にできるなら最初から作品なぞ作らない。理屈の方を優先させたくてアーティスト活動をやめ文筆活動を始めたというのなら、著者にとっては幸せな選択だったと言えるのではないだろうか。2016/06/01
しゅん
14
前半は著者の価値判断がお茶の間のそれと癒着している「ワイドショー、ゴシップ誌」的な書き方になっていてちょっとキツイ。客観的な分析も欠けている。まともに追っかけたことのない芸能人のアート活動を知れたのはよかったけど。なんでも鑑定団と誰でもピカソの比較は面白かった。著者の「アーティスト」断念の経験には学びがある。2019/11/12
どらがあんこ
13
断片的なものの歪みに気が付かないか、また指摘されてもノーガードで自分を盾にするしかないのであれば、もはや内輪ネタどころではなく固着してしまうのだろうなと。そういった姿勢は嫌いじゃないけど立て直すための問いがあるかで次に連結するか、箱になるかは変わるのではないか。筆者の地下水脈のイメージはなんとなくその間に位置するように思える。2019/02/28
タイコウチ
12
「アーティストをやめてやや理屈っぽいおばさんになった」著者による、自称「アーティスト」現象の心理学・社会学的分析。芸能人アーティストをなで斬りにする(?)辛辣な筆致はナンシー関を思わせるが、業界の成り立ちをよく知る人だけに、「誰でもピカソ」と「なんでも鑑定団」のTV番組比較や「職人」をめぐる考察など門外漢には勉強になる。文庫化(2011年)にあたり加えられたあとがきには、「公共の場に出ていった表現に対して上がってくる「不快なものを晒さないでほしい」という声」=「他者の登場」というアクチュアルな問題提起も。2019/09/07