内容説明
子供たちが沈んでいる、と云われる美しい沼のほとりに建つ一軒の家。そこで祖母と2人きりで暮らしている従兄の草一を、紅於と頬白鳥の兄弟が訪れる。沼の底へと誘う青い鳥を追って消えた少年たちの愛を描く水紅色の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
148
【図書館本】魚たちの離宮の姉妹編という本書だが、読んだ印象が全く違って驚く。魚〜はどこまでも冷んやりと透き通る水と淡く光る琥珀糖、盂蘭盆の回転灯の妖しくぞうっとした美しさのイメージ。 こちらはどちらかというと真逆。暑さで霞む蜃気楼の白い道、沼の息苦しさと、その汚泥に、まるで死骸の血を吸う桜のようにひたすら美しく咲く睡蓮。水蜜桃の甘く熟れた匂いと相まって、むっとする程の夏そのもの。 最初から破滅を予感させ、余韻を持たせて唐突に終わる。夏の真昼に薄く見た少しこわい夢のようなお話。2018/08/29
優希
93
気怠く病んだような雰囲気が水をモチーフに語られます。沼の底に誘う青い鳥が仄昏い怖さを感じさせますが、その妖しさに魅せられました。草一、紅於、頬白鳥は皆沼に惹かれていくのが死の影を匂わせながらも美しかったです。静かに横たわる死が彼らを招いたのかもしれません。永遠の安らぎという印象が浮かびました。まるで幻を見ていたようです。2016/01/20
★Masako★
78
★★★+長野さん三作目。ある夏の日、沼のほとりに住む祖母の家を訪れた紅於(べにお)と頬白鳥(ほおじろ)兄弟。祖母は家族を亡くした美しい従兄・草一と一緒に住んでいて……子供が沈んでいるという噂のある沼は沢山の睡蓮が次々と花開き果をつける。まるで生と死、両方を象徴しているかのようだ。その沼に魅いらていく少年たち……美しく細やかで静謐な描写に情景がくっきりと浮かび上がる中、最後まで曖昧で不穏な気配が漂い、心がぞわぞわとした。読了後、ルリルリルリと啼く青い鳥の声と姿がいつまでも耳に目に焼き付いて離れなかった♪2018/08/29
ちょろこ
76
夢か現か、の一冊。真夏の昼の陽炎の中にいるような、夜は薄い白いヴェールの中にいるような…揺らめきに包まれたような夢か現かの物語だった。静謐繊細な描写がたまらなく心を、五感を刺激してくる。あの、果の溜め息が聴覚を、水蜜が嗅覚を喉の渇きを刺激し、心はそっと撫でられるような感覚。そして文字の向こうにはっきりとその情景が浮かんで視えるような視覚への刺激は、沼に魅せられた少年と共に読み手もその情景描写に魅せられ思わず手を伸ばしたくなる感覚に陥った。そして取り残された。手に泥の感触だけを残して。2018/08/29
mii22.
61
ここには古き良き日本情緒溢れる風景と空気感がある。言葉の持つ透明感、繊細な表現、うっとりさせられる読み心地で長野まゆみの世界を堪能した。子供が沈んでいると噂される水蓮や蓮におおわれた美しい沼のほとりにある祖母と従兄が住む家にやって来た兄弟の夏の出来事は、ゆらゆらとした水と光と空気の見せる曖昧な夢のよう。水蜜の甘い香りもルリルリルリと啼く鳥の聲も水蓮の花がひらく情景もはっきりと目に浮かび匂いも音も感じることが出来るのに、少年たちの存在は儚くけっして触れることができないところにあるのが不思議。2018/08/17