内容説明
こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音立てて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばをもうわたしたちはわすれてしまったのでしょうか―ただ一つのこされたちいさな物語。
著者等紹介
須賀敦子[スガアツコ]
1929年、兵庫県に生まれる。聖心女子大学卒業。パリ、ローマに留学後1960年よりミラノに在住、71年に帰国、上智大学教授などをつとめる。主な著書に『ミラノ霧の風景』(白水社、講談社エッセイ賞・女流文学賞受賞)など。1998年没
酒井駒子[サカイコマコ]
1966年、兵庫県に生まれる。東京芸術大学美術学部卒業
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感想・レビュー
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mocha
113
とても美しい文章と美しい絵。童話のような形だけれど「こうちゃん」の存在そのもののようにつかまえられない。酒井駒子さんの雰囲気のある絵にひっぱられて子どもの姿を探しても、こうちゃんは風、こうちゃんは光。もしかしたら天使。四季折々の情景の中で、こうちゃんと出逢うアルバムのよう。2017/05/15
♪みどりpiyopiyo♪
109
こうちゃん、不思議な物語です。童話でしょうか、散文詩、随筆、はたまた哲学書でしょうか? こうちゃんは不思議な子。戸惑いながら読むうちに なんだか懐かしい気持ちになって。こうちゃんは風、こうちゃんは光。もしかしたら 天使ちゃんか 妖精さん あるいは精霊、心の友だち、…あるいは 私。孤独、祈り、夢と希望、痛み、かなしみ、郷愁、やさしさ。■目に見えることも、聞こえることもないこうちゃんの微笑みを… (1960年。2004年)2017/09/10
KAZOO
98
須賀さんがこのようなかわいらしい子供向けのような本を書かれていたとは思いませんでした。絵が非常にいい感じのカラーで描かれていて心が落ち着くような気がします。読メさんのお気に入りさんの紹介でしたが、これからも読み直しそうないい本でした。2015/10/01
風眠
91
普段は気づかないどこかにそっと隠れてる何かみたいな。自分の片割れのような、鏡のような、そんな風に「こうちゃん」は、ある日現れて、いつかいなくなる。大人になったら会えない妖精みたいで、風みたいで、それで時には光みたいで。いろいろでさまざまな「こうちゃん」がきっと私を励ましてくれていた。寝転んだ草の中で、しょんぼりしてたジャングルジムの中で。「本当にうつくしいものをみているときにひとから声をかけられると気恥ずかしい」から、ツンとすまして大人になって、そして昼寝から覚めた切ないような気持ちで、日々を生きている。2013/05/01
がらくたどん
77
『光と窓』(カシワイ)を読みながら:須賀敦子の「こうちゃん」は光かもしれないし風かもしれない。記憶かもしれないし見えそうで絶対に見えない未来かもしれない。泣き虫で儚くてそのくせ世界全部を丸ごとキュッと抱きしめられる。誰にでも生まれてしばらくの何年かだけは備わっているいたいけな全能。そのテキストに酒井駒子が寡黙でふんわりと乳臭い「像」を与えた。教義のない無邪気な「イコン」のようだ。争いと不寛容の時代、こうちゃんは瓦礫の街で虚ろに座る誰かの隣で「どうすれば、どうすれば いいんだろう」と泣いているかもしれない。2023/01/12