内容説明
夜明けの都市に失なわれた記憶をたどる哀切なレクイエム。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マリリン
43
名前はたしか、真昼子…で始まる本作は、記憶を失うという奇妙な病気に罹るという設定で書かれた幻想的な裏の世界。古書店やビルの谷間や華やかな音楽堂の裏側から漂う深い孤独、失われても残しておきたい記憶を描き、著者独特の感性で綴る世界はどれ程の苦悩を経て生まれたのだろうか。美しく描く事が時間への弔いか。著者の根底にあるのが時代に対する憎しみならこのような形に昇華させた筆力に深い感銘を受けた。失われた記憶をもとめて書き続けられてきた都市の叙景の断章が、街頭に始まり山岳に終わる時代の叙事詩の情景が深く心に刻まれる。2022/04/06