出版社内容情報
女は薮で蛇を踏んだ。蛇は女になり食事を作って待つ。母性の眠りに魅かれつつも抵抗する、女性の自立と孤独。芥川賞受賞作他二篇
内容説明
藪で、蛇を踏んだ。「踏まれたので仕方ありません」と声がして、蛇は女になった。「あなたのお母さんよ」と、部屋で料理を作って待っていた…。若い女性の自立と孤独を描いた芥川賞受賞作「蛇を踏む」。“消える家族”と“縮む家族”の縁組を通して、現代の家庭を寓意的に描く「消える」。ほか「惜夜記」を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
409
再読。3つの短篇を収録。篇中の表題作『蛇を踏む』は1996年上半期芥川賞受賞作。当時は、これまでにはないまったく新しいタイプの小説だっただろう。もちろん、今でも川上弘美の作品は強い個性を放ち、独特の位置を占めているのだが。ご本人によれば「うそばなし」ということになるのだが、その「うそ」の奇妙なリアリティにこそが、まさにこの人の作品世界の固有性なのだろう。そして、文体のしなやかさが、それを支えている。しかも、しなやかでありながら存外に強靭でもあるのだ。不連続線を一気に飛び越えて世界を構築してしまうのだから。2013/06/11
遥かなる想い
212
川上弘美の芥川賞受賞作を再読した。喪失の世界はやはり夏ではなく、冬に読むべきだった。2010/08/21
やっさん
197
★★★ え、なにこれ、ホラー???意味不明。解釈不能。情景も自由に膨らまない。・・・でも、魔術のような表現力と言葉選びで、たちまち夢想の世界に引きずり込まれた。こりゃ妙な経験をしたなぁ。2018/04/20
hit4papa
185
「本当」の中に「うそ」を持ち込んで、その「うそ」を「本当」の遊び場にしてしまうというテーマパーク的な感覚が素敵です。穿った見方をせずに、川上弘美さんの「うそばなし」を楽しみましょう。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
178
背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。夜のはじまりを告げる猛る馬は少女の吐息で大人しくなる、夜を支配するのは貴女。少女に口づけをしたい私は蛇だった。かかる天の川を飲みほしてミルク色に煌めくその唇、吸いこまれて吸うと蜜の味。吸うたびいとしさが募って、それは誰がためのいとしさか、少女はしおれてしまったのに。いつの間に眠りについた少女は光を放ち月下香はやわらかに花ひらき蜜は水滴になってどこまでもしたたる夜。空にかかる行燈片手に歩く夜はむらさき祭りは終わらないで明けの明星。2020/04/30