出版社内容情報
火の山を望む高原病院。逝く者と残る者、双方の生のエール交換。そのとき時間は凍結し、結晶して私たちの前でキラキラと輝きだす
内容説明
火の山を望む高原の病院。そこで看護士の和夫は、様々な過去を背負う人々の死に立ち会ってゆく。病癒えず逝く者と見送る者、双方がほほえみの陰に最期の思いの丈を交わすとき、時間は結晶し、キラキラと輝き出す…。絶賛された芥川賞受賞作「ダイヤモンドダスト」の他、短篇三本、また巻末に加賀乙彦氏との対談を収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
255
1988年下半期芥川賞受賞作。本書には受賞した表題作のほかに短篇を3篇を収録する。これらの3篇はいずれも、著者のカンボジア難民キャンプでの経験を踏まえたもの。もちろん、これらも基本的にはフィクションだが、表題作はより小説としての構想を持って書かれている。手法そのものに斬新さはないが、個性は十分に発揮されている。特に著者が現役の医者であることもあって、日常の中で日頃は意識することのない「死」が、尊厳を持って描き出されている。最後は、ダイヤモンドダストの透明なイメージと共に、読後は静かな余韻と感動に包まれる。2013/07/10
遥かなる想い
254
第100回(1988年)芥川賞。 病院勤めをしながら、実直に生きる和夫の 日々が心に残る作品である。 和夫の村で生きる人々の佇まいが 勤勉で 心地よい。人の世のはかなさが 凛として心に染みる、作品だった。2017/12/11
新地学@児童書病発動中
145
南木佳士の初期短編集。今度再読して、初期の頃から同じスタイルで小説を書いていたことに驚いた。それだけ完成したものを持った作家だったのだろう。「地に足をつけて発言したい」という後書きを読んで、なるほどど思った。私が南木さんを好きなのは、この地に足がついた感じに惹かれているからだ。医者という職業は地に足がついていないとできないと思う。小説に多く出てくる「死」は一番地上的なことだと思う。その死を凝視するこの作者の視線は諦観と優しさに満ちている。これからのこの作者の作品を繰り返し読みたい。2016/05/29
hit4papa
119
著者は信州の臨床医ということで、収録されている4作品とも自身の経験がベースにあるようですね。連作短編のようでありながら、やや変化があってそこが味のように思えます。難民医療のためタイ・カンボジアへ赴いたあたりがが作品に色濃く反映されています。看護士の主人公が認知症の父のために水車をつくるタイトル作は、移ろいゆく人生の終わりに待ち構える”死”を強く意識する作品です。ダイヤモンドダストのきらめきと冬へと向かう肌寒さが余韻を残します。全収録作品に共通するのですが、ひたすら地味であるし寂しくもありますね。【芥川賞】2018/01/10
chimako
110
芥川賞受賞作とは知らずに手に取った1冊。表題作の他の3編はカンボジア難民医療に従事した経験をもとに書かれている。短編だが読 みごたえがある。表題作「ダイアモンドダスト」は男ばかりの家(父・自分・息子)におこった出来ごとが主人公の同級生や末期ガンのアメリカ人宣教師をスパイスに描かれる。自分が森の中に立っているような秀作。最後の情景は、今生きる者と死ぬ者との断然たる違いを見せる。南木氏の経験も土地も家族も巻き込むような小説は派手さはないが胸に沁みる。時代や流行に傾かない作風で好きな作家。『トラや』を読みたい。2016/08/18