出版社内容情報
家出をした高二の美緒は盛岡で毛織物の工房を営む祖父の家に駆けこむ。雲を紡ぎ、光を染め、風を織る中で少女は希望を見つけていく。
内容説明
壊れかけた家族は、もう一度、ひとつになれるのか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布」ホームスパンをめぐる親子三代の心の糸の物語。
著者等紹介
伊吹有喜[イブキユキ]
1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒業。出版社勤務を経て、2008年『風待ちのひと』(「夏の終わりのトラヴィアータ」より改題)で第三回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
775
伊吹 有喜、二作目です。本書で第163回直木賞受賞作・候補作、漸くコンプリート(5/5)となりました。現在の家族の問題を岩手の豊かな自然が紐解き、美しい布が壊れた家族を包む感動の秀作でした。作品的には、今回の直木賞受賞作よりも上かも知れませんが、7回ノミネートに負けた感じです。著者が次回ノミネートされるとすると4回目なので、本作を上回る出来の作品でぶっちぎりで受賞して欲しいと思います。 https://books.bunshun.jp/articles/5636 2020/08/13
さてさて
752
『壊れかけた家族は、もう一度、ひとつになれるのか?』という問いかけに対する伊吹さんなりの答えを見る物語。『“運命の糸”というように、古くから、人は糸に運命や人生を重ね合わせて表現してきました』とおっしゃる伊吹さん。『糸は、一度切れても、撚りをかけてまたげることができるんです』と優しく語る伊吹さん。そんな伊吹さんが、壊れかけた家族が再び一つにまとまっていく様を、紡がれていく糸に重ね合わせて描くこの作品。お互いの心の糸を紡ぎあうその先に、家族というものの一つのあり方を見た、そんな繊細さに満たされた作品でした。2021/07/10
ウッディ
633
雲のような羊毛を紡ぎ、染色して、布に織り上げるホームスパン。友人の言葉に傷つき、引き籠りになった美緒は、祖母から贈られた毛織物のショールに包まれると心が安らぐ。母と衝突した美緒は、岩手の祖父の工房を訪れ、ホームスパン作りに魅せられる。孫を見守り、優しく言葉をかける祖父と自然の中で夢を見つけ、自分らしさを取り戻していく美緒。教師でもある母の言葉が厳しく、読んでいても胸を切り裂かれるようだった。子供の将来を思う気持ちは変わらないはずなのに、感情に任せて投げた言葉の鋭利さに自分も気を付けなければと思った。2020/09/10
とろとろ
471
羊毛を手で染め紡ぎ織りあげた布をホームスパンというのだそうな。すなわち、家庭で紡いだ糸で織った織物のことで、その太く粗い織物はオーバーコートやジャケットに丁度良い生地になるんだそうな。その工房を巡る親子三代のこだわり物語。羊毛が織物になるまでの工程の最初の部分、糸に紡ぐまでの話が主。その工房にたどり着くまでの主人公の紆余曲折やそこに関わり合う人達の話。親子それぞれの夫婦の絆、家族の絆、親の立場、子供の立場としての葛藤が並行して繰り返し繰り返し語られるが、最後は収まるべき所に収まった、そんな感じかな。2020/04/11
tenori
459
読後感の良さと「小説を読んだな」という充足感に満たされる伊吹有喜さんの優しい物語。崩壊しかけた家族、居場所のない学校生活。主人公の美緒を支えていたのは、一枚の赤いショール。それは交流が断たれていた父方の祖父母からの唯一の贈り物。家を飛び出した美緒の向かった先は、ショールを紡いだ祖父の工房がある岩手。糸を紡ぐことで自分の居場所と価値を見いだすきっかけをつかみとる過程が岩手の風土や街の景色とともに柔らかく描かれる。馴染み深い地名や店の名前が随所に織り込まれ、盛岡市民としては嬉しい限り。祖父の語る言葉も沁みる。2020/08/17