内容説明
深い霧がたちこめ、霧笛が響く夜。庭を見わたすフランス窓の前で、車椅子に座った館の当主が射殺されていた。そのかたわらには、拳銃を握ったままの若い妻が立ちつくしている。車の故障でたまたま立ち寄った男は、美しい妻のために一計を案ずるが…スリリングな展開と意外な結末が待ちかまえる傑作ミステリ戯曲。
著者等紹介
クリスティー,アガサ[クリスティー,アガサ][Christie,Agatha]
1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な臆測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている
深町真理子[フカマチマリコ]
1951年都立忍岡高校卒、英米文学翻訳家
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
58
霧の夜、助けを求めてきた一人の男。ところが邸の中では射殺された死体の傍らに被害者の妻が立っていた。まさに招かれざる客の到来である。ここで男女二人の会話がすばらしい緊張感を作り上げる。私は高校生の時、演劇部の上演を観てこの作品を知った。それまで読んだクリスティーのいくつかの作品に対して納得がいかない所があったが、この劇を見てクリスティーへの不信感は吹き飛んでしまった。一室の中で、会話だけによって心理の綾を解き明かし、真相を二転三転させていくこの劇に完全に圧倒された。芥川の「藪の中」にも通じる見事さだと思う。2013/12/04
えか
55
深い霧が立ち込める、ある夜、車の故障で、ある男が、助けを求めて、オゥリック家に立ち寄ると、館内では、当主が殺されていて、傍に銃を持った美貌の奥様が立っていた。男は成り行きで、奥様を助ける為に、偽の証拠やアリバイを計画、実行していく。クリスティでは、珍しい、ヒチコックの『ロープ』や『太陽がいっぱい』のような、こちらは犯人を知っていて、完全犯罪が成功するか否か。といった内容の戯曲に見えるが、さすがクリスティ、もちろん、これだけで終わる筈がない。 タイトルの『招かれざる客』も、この時点ではこの男のように見える。2023/06/11
ばりぼー
49
深い霧の夜、車の事故のため助けを求めて男が屋敷に立ち寄ると、そこには車椅子に座ったまま射殺されている男と拳銃を握ったまま立ちつくす美しい女が…。登場する人々がそれぞれの視点で被害者を語っていくうちに、被害者は殺されて当然の人物だとわかり、誰もが犯人のように見えてきて当惑してしまいます。何とか犯人を当ててやろうと注意深く読み進めましたが完敗。最後の20ページの急展開は息つく暇もないほどで、翻弄される快感に酔いしれました。違和感を感じる部分も読み終わってみるとすっきりです。なるほどそういうことか…。2014/08/10
藤月はな(灯れ松明の火)
48
車が溝に嵌り、助けを求めて入った家で目撃したのは若い妻が拳銃を持っていて、車椅子の夫が死んでいるという光景だった。不遇な理由に同情し、美しく、聡明な妻のために偽証する男。しかし、ポツリポツリと洩らされた各自の視点によって状況は二転三転していき…。クリスティが多くの人々に読まれる理由は魅力的な人物と人間観察などで培われたシビアな視点と恐ろしさ、必ず、読者を出し抜く展開があるからだと改めて実感しました。それは戯曲でも遺憾無く、発揮されています。2013/09/05
Kircheis
46
★★★★★ クリスティ作の戯曲。 ある深い霧の夜に殺された傲慢な金持ちの関係者達と、偶然訪れた1人の「招かれざる客」が織りなす人間劇。途中ダレるところが全くなく、非常に読み応えがあった。 最後の二転三転するところはハラハラしっぱなし。個人的にずっと不幸だったローラにはこれから幸せになって欲しい。2018/11/10