内容説明
医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として山奥で再教育を受けることになった。厳しい労働にもめげず、僕らは仕立屋の美しい娘に恋をした。僕らは禁書のバルザックを手に入れ、その小説世界に夢中になった。親友の羅はバルザックの語る壮大な冒険を、哀しい恋の物語を娘に読み聞かせ、ふたりは親密になっていくが…。文化大革命の嵐が吹き荒れる中国を舞台に、在仏中国人作家がみずからの体験をもとに綴る青春小説。
著者等紹介
ダイ・シージエ[ダイ・シージエ][Dai Sijie]
1954年に中国福建省で医師の両親のもとに生まれる。1971年から74年まで、下放政策により四川省の山岳地帯で再教育を受ける。解放後、1978年、四川大学に入学。1984年には国費留学生としてパリ大学に留学し、美術史を専攻した。ここでジャン・ルーシュ、エリック・ロメールなどの映画監督に出会い、フランス国立高等映画学院で映画を学んだ。『バルザックと小さな中国のお針子』は小説デビュー作で、フランス本国で40万部を超えるベストセラーとなり、30カ国で翻訳された。長篇第2作Le complexe de Diはフランス最高の文学賞のひとつフェミナ賞を受賞している
新島進[ニイジマススム]
慶應義塾大学文学部仏文科卒。同大学院修士課程およびレンヌ第二大学博士課程修了。現在、早稲田大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アン
99
文化大革命により、再教育の名のもと山奥に送られた二人の青年。山村で出会う美しい仕立屋の娘への恋のときめき、禁じられた西洋の翻訳小説への渇望…。中国人である著者は映画監督でもあり、彼がフランス語で執筆した小説です。抑圧的で厳しい環境下にありながら、青年達が本の中に新しい発見と喜びを見い出していく様子は瑞々しくもあり、青春期に抱く様々な感情を丁寧に拾い上げています。本が繋ぐ人との出会い、本に導かれ変化する人生。心の糧となる文学に魅了され、自由を求めて旅立つ小裁縫の姿が心に残る作品です。 2019/08/22
nobi
85
言葉の静かな流れに冒頭から惹かれた小説は久しぶり。でも描かれる情景はのどかなフランスの丘陵でも日本の村落でもなく、文化大革命下“知識青年“が送り込まれた中国の貧しい田舎。反革命的と断罪された親を持つ若者の嘆きとやりきれなさは一層強いのに、原文が仏語ということもあってか言葉がしなやかに掬い取ってゆく。そこへ「バルザック」と「中国のお針子」というおよそ接点の無さそうな二つが絡み、土色めいた追想は異彩を放つ物語へ。自由への文化への飢餓感、息詰まる展開、恋のときめき、自由の齎す悲哀…。バルザックが読みたくなった。2019/08/03
Willie the Wildcat
59
ダメといわれれば、余計気になるのが人の心。ましてや、抑制された知識欲であれば尚更のこと。主人公、羅、そして小裁縫。メガネからの”戦利品”は無論だが、羊皮に写したミルエ、語り部そして医師の涙が、心を解き放つ道しるべ。別れは各々の夢への旅立ち。主人公の夢・「崖道」は、気づきへの警鐘ではなかろうか。一方、メガネをなぐった主人公の気持ちに共感。作者の”思い”の解釈は自由も、作品そのものを私事で改竄するのはそもそも論。文化大革命の真っ只中故の文化の見直し機会だったのかもしれない。2016/02/29
aika
47
本の世界を知ったからこそ、どんな苦労にも堪え忍べる幸福と、これまでのように体制のもとでは生きられなくなってしまい、大切な家族のもとにも戻れないという不幸。本を読むことが、人生に与える意味の凄みを感じました。反革命分子の子として農村に送られ、満足に食事も与えられず、「再教育」という名の 強制労働を強いられる僕と羅(ルオ)。とても耐えきれない状況の中でも、彼らは仕立て屋の美しい娘・小裁縫に恋をし、少年から青年へと成長していく。そんな人生の中で最も大切な時期のきらめきと哀しみが混ざりあって、切なくなりました。2021/06/05
ふみ
34
いや文革ってなんだったんだ?魑魅魍魎が闊歩する下放先。愛と青春と目覚めの物語。2016/10/29