内容説明
カナダで療養を終え20年ぶりにロンドンに戻った私に忌わしい事件の記憶が甦る。私が12歳の時、身勝手な父はパブで知り合った娼婦ヒルダと共謀し、優しい母を殺したのだ。ヒルダは厚かましくも母の服や化粧をまとい家に住みついた。罪悪感のかけらもない二人に激しい殺意を抱いた私は計画通りヒルダを殺した。だが、混濁した記憶を辿るうち、恐ろしいことに“事実”が揺らぎはじめる…人間の心に潜む狂気を抉り出す衝撃作。
著者等紹介
マグラア,パトリック[マグラア,パトリック][McGrath,Patrick]
1950年ロンドン生まれ。犯罪精神病院の院長である父親を持ち、幼い頃から患者と接していた。80年代にニューヨークに移り住み、雑誌の編集などに携わるかたわら執筆活動を始める。88年に短篇集『血のささやき、水のつぶやき』で文壇デビュー。89年にゴシック小説とスリラーを融合させた『グロテスク』を、96年にミステリの要素を盛りこんだ『閉鎖病棟』を発表し、作家としての名声を得た
富永和子[トミナガカズコ]
独協大学外国語学部英語学科卒、英米文学翻訳家
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感想・レビュー
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神太郎
19
何とも言い難い小説である。ここまで語り手として「信用できない」というのも珍しい。解説にも書かれてありますが、本作の語り手である「私」の語りには、現実と虚構が一緒くたにごちゃ混ぜになってしまっている節があり、なかなかに厄介である。ただ、意図的にやっているのではなく、彼自身が精神に異常をきたしているからこそ、世界はそのように見えているのである。「信用ならない語り手」ではあるが「語り手として失格」とまではいかない。叙述トリックと言えばそうなのかもしれない。ハマる人には確実にハマる。そんな一本だ。2016/04/07
Holden Caulfield
5
「スパイダー」 信頼&信愛なるepiでも、 やっぱ当たり外れがある。 って言うか。 色々な意味で感性が合わなかった、、、 毎朝、読書の為に3時に起床しているが、それでも、かなり読書量が減っている。 特にピアノを始めてからテキメンにオチている。 「夜は、呑んだら読まない」 ※クローネンバーグによって映画化されているので、映画版を観てみたい。 2020/09/01
訃報
5
語り手の「理性ある狂人」の造形は巧みだし構成もそれに沿ってよく練られてるのだろうけどあんまり面白くない。精神病院の独房で糞で名前書くとか、アイデアはいいけど描写が淡々としすぎて味気ない。淡々としてるのが怖い、とも言えるのかもしれないが、実際読んで怖いとは思わなかった。終盤の勢いはすごかったけど。若島先生の解説はおっしゃる通りですねと思ったがどうも当たり障りない感じでホントはそこまで好きじゃないんじゃないかという気がした。2013/10/09
うさぎさん
3
なるほど叙述トリック。しかし、それにしてもスパイダーの狂気が物足りない。父親がヒルダに魅せられていく部分はたまらなかったが、それ以外は描かれていることの割につまらないというか…それにしても煙草が吸いたくなる小説だ2017/02/21
hikarunoir
3
気違いの綴る手記形式だからこそ、否認したがる不都合な事実も垣間見え、安心して委ねられる構造。狂気ゆえに信頼できる語り手。2016/01/15