内容説明
現実にあった、『冷血』を上回る残虐な連続殺人事件と刑事の絶望的な戦いを描く中篇「手彫りの柩」。表題作「カメレオンのための音楽」など、悪魔と神、現実と神秘のあわいに生きる人間を簡潔にして絶妙の筆致で描く珠玉の短篇群。マリリン・モンローについての最高のスケッチといわれる「うつくしい子供」など人の不思議さを追及した会話によるポートレート集。三部からなる、巨匠カポーティ、最後の傑作を野坂昭如の翻訳で贈る。
著者等紹介
カポーティ,トルーマン[カポーティ,トルーマン][Capote,Truman]
1924‐84。ニューオルリーンズに生まれ、19歳のときO・ヘンリー賞を受賞した短篇「ミリアム」でデビューした。処女長篇『遠い声遠い部屋』で文壇の注目を集め、南部の輝かしい星、早熟の天才と呼ばれた
野坂昭如[ノサカアキユキ]
1930年生、作家。小説「エロ事師たち」、直木賞受賞作「火垂るの墓」「アメリカひじき」、吉川英治文学賞受賞作「同心円」他多数
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感想・レビュー
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Y2K☮
30
「手彫りの柩」はある意味で「冷血」を超えている。書き手を殺人事件の傍観者にしておかないイコール読者にもそれを許さない(フィクション性が皆無ではないとしても)。カポーティ健在を証明した傑作だが、彼の中では違ったのか。「うつくしい子ども」を読むと「ティファニー」のホリーはマリリン・モンローを想定していたのかなと思える。カポーティだけが知っている真のモンローなら確かに適役だ。ただ心の闇や誰もがひた隠すシャドウの正体に敏感過ぎるがゆえ、それを描き出すことで後年セレブたちの逆鱗に触れたのも事実。神は天才に手厳しい。2021/05/03
たまご
26
ある情景を切り取っているかに見えて,その後ろには語られない多くのストーリーが隠れているような.ここで終わってしまう,もうちょっと続けてよ…とon goingな気持ちが,不思議な余韻をもたらしているような. 第3部の「会話によるポートレート」が,会話だけで進むのに,情景が鮮やかに浮かびます.野坂さんの訳,もすごいなー.2017/09/05
吉野ヶ里
24
んんん? なんでかわからんが読みにくかった。カポーティなのになんでや。訳か? そんな不自然でもなかったが。序文が超良かった。ああいう洗練された自尊心好き。《単に出来の良い作品と本物の文学とには相違がある。》。文芸が一つの芸だということを自覚している作家。『カメレオンのための音楽』→不気味。会話がおしゃれでちょっとついていけないところがある。ピアノの音にカメレオンが寄ってくる話。『ジョーンズ氏』ジョーンズ氏。何者なのか……。2016/06/13
神太郎
21
著者はかなり「苦しんで」この作品を描いたという。というのもこの作品の前作「冷血」があまりにヒットしたために作品が書けなくなってしまったのだ。 ヒット作を生んでしまったが故に「生みの苦しみ」を味わうというのはどの業界でもありうること。人々はヒット作から「その人らしさ」を見出し、それ以降は常にその「らしさ」を求めようとする。あるいは「革新」を。全3部からなるが、第1部は主人公が動かすが第2部以降は作者が聞き手として物語を動かしていく。そういう構成も実は生みの苦しみ故に生み出された演出なのかも。2016/02/08
高橋 橘苑
20
「叶えられた祈り」を手に取る前に、もう少し寄り道したくなって、本書を読む。モンローとの会話を中心とした「うつくしい子供」は洒落た出来だが、個人的な印象は「命の綱渡り」。事件に巻き込まれたカポーティが、黒人歌手パール・ベイリーの機転で助けられるストーリーで、パールの存在感とカポーティの最後の言葉「だけど僕は奇蹟を信じるんだ」が印象的。「そしてすべてが廻りきたった」はちょっと不気味。自分自身も感じていた自由と犯罪の微妙な関係。特に空間とか可能性という概念が、犯罪の誘因になるとカポーティも思っていたのだろうか。2015/06/21