内容説明
過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医ジャックモール。その精神分析は、他者の欲望・願望を吸収して自己を満たすために施される…本書は、軽みとペシミズムが同居するいつもながらのヴィアン風味を保ちながらも、後者により比重のかかった著者最後の長篇小説である。ジャックモールのうつろで行き場のない姿を、発表後50年経った現在を生きる若者に重ね合わせてみるのも、決して無謀な試みとは言えないだろう。
著者等紹介
ヴィアン,ボリス[ヴィアン,ボリス][Vian,Boris]
パリ郊外生まれ。39歳の若さで死ぬまで、作家、詩人、画家、劇作家、俳優、歌手、ジャズ・トランペッターなど20以上もの分野で旺盛な活躍をみせたマルチ・アーティスト
滝田文彦[タキタフミヒコ]
1930年生、東京大学文学部。仏文科卒、フランス文学者
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
92
☆4.25 主人公はジャックモールという精神科医です。精神科医ですから精神分析をすると彼は言います。しかし彼の行いが精神分析なのでしょうか。余りにも発想が突飛で私の頭では理解不能です。これは幻想小説に分類?されるのでしょうか。ただありがたいことに、スラスラと読みすすめる事はできます。作者が何を問たいのかは不明ですがそんな難しい事など、気にせず愉しむ事に徹すればとてもユニークな物語です。2021/02/24
優希
58
歪んだ世界を感じます。足元がふらつくような。そして体の中に残虐感が満ちていくようでした。ペシミズムの空気感が強いからでしょうか。しんどいのに読むのをやめられず、何故か読み終えた後の読後感も悪くなかったです。2022/11/01
しょう
24
物語の主題がつかみにくい。精神科医のジャックモールが自身を「虚」と見なし、満たしたいがために村の人々の精神分析を行う。精神分析を行う村の人々は率直に言って狂人である。物語の筋も不明瞭で、シュールなのか不条理劇なのかの判別もつかみにくい。このような特異な物語でありながら、情景描写は綺麗なので、その辺りは楽しめたが、全体的には理解不能だった。特に後半の日付も狂っているのは非常に不気味だった。2020/12/08
長谷川透
20
『うたかたの日々』でアリーズがパルトルを打ち抜いた〈心臓抜き〉がそのまま題名になった小説だが、『うたかたの日々』のスピン・オフ作品でもなければ、肝心の〈心臓抜き〉なるものが全く登場せず、いい意味で肩透かしを食らわせて貰った。現実を超越した世界が描かれる点はいつも通りだが『うたかたの日々』に較べると文体が乾いており、グロテスクな色が強く、『うたかたの日々』とは一見して別世界のようだ。しかし遊び心によって創られた故に強固な中心機構がなく、一度亀裂が入れば脆弱性が露わになるのは、いつものヴィアンの世界であった。2013/10/07
ふみふみ
14
過去を持たない空虚な存在の精神科医ジャックと彼が足を踏み入れた村。シュールでグロテスクな不条理劇に単調でテンポのずれた会話、意味不明な月日など翻訳文からも原文の異質さが伺い知れますが、内容的にはアイロニーぐらいしか読み取れませんでした。異質感、ふわふわ感と気持ち悪さが読後に残ります。 2022/01/24