内容説明
ブロンドで青い目をした楽天家デリー、長い黒髪の教養あふれる画家ノラ、赤毛で歌やダンスが得意な女優志望のベラ、すべての男を憎む乱暴者ジンクス。サリーは自分に耐えられない事件にでくわすと、無意識のうちに四つの人格のいずれかにスイッチしてしまう。これが記憶喪失の原因だった。ある事件をきっかけにサリーは、精神科医ロジャーの治療をうけることになるが…五重人格のサリーの心の軌跡を鮮やかに描く感動作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
106
別人格の存在を受け入れたサリーは、ロジャーの催眠術を用いたアプローチにより人格統合されていく。別人格たちがかなり従順に合意する点はリアリティに欠けるが、重点が置かれているのは彼女たちが生み出されたサリーの悲痛な過去の掘り下げや、「生きていたい」と残された時間を自分らしく生きようとする彼女たちの切実な想いである。とりわけロジャーが涙ぐんだ声でデリーを融合させるカウントをとる場面は印象深い。人生は喪失と発見の繰り返しだからこそ、「一秒一秒を大切に生きていかなければならないの」だ。複雑な自分と向き合いながら。2021/04/16
優希
93
それぞれ分裂していた人格が、統合されていく上での葛藤を強く感じました。主に催眠療法での統合ですが、その治療はかなり苦しいものなのかもしれません。ただ、多重人格者として生きてきた危険性は地獄のようなものだったように思えてなりません。一人一人の人格が強い想いを持ちながら受け入れていくことで成功した人格統合ですが、完全に一人となったときの絶望と希望を見ずにはいられませんでした。一度の催眠療法であっさりと統合されるのには違和感を覚えましたが、一人の人間としての人生が始まったと思うと、光が見えた気がします。2016/10/29
ヴェルナーの日記
60
「解離性同一性障害」に苦しむ主人公サリーが、主治医のロジャーの力を借り分裂した5つの人格を統合していく中で生じる葛藤を描いた物語。下巻は主に催眠術療法による人格統合が主体に語られている。ただ現実には、解離性同一性障害の診断は難しく、同様な症状をあらわす病として、重度の統合失調症や境界性パーソナリティ障害。時にはPTSDなどでも表れることもある。よって解離性同一性障害の診断には、スクリーニングテストをおこなう(ほかの病気の同様)。これはDES-T、DDISやSCID-Dなどと構造化面接、診断面接などがある。2015/01/31
ミツ
11
これはなかなか。『アルジャーノンに花束を』と『24人のビリー・ミリガン』を繋ぐ、隠れた佳作。後半はそれぞれの人格を統合し一つにすることが中心となって物語が展開し、各人格が誕生したきっかけと統合にあたっての各者各様の心理的な葛藤が描かれる。著者が大学で心理学を専攻していただけのことはあり、患者と治療者との微妙な関係や多重人格者への統合治療の過程など、微に入り細を穿って描かれているが、だんだんとオカルトじみてくるのは仕方がないことなのか。そんなことを気にせずとも、各人格に萌えるだけで十二分に楽しめる。2011/09/11
たぬ
10
★4 継父の事件より前にすでに大変なことを体験していたサリー…別人格を作って辛さをかぶってもらわないと我が保てなかったんだろうな。個人的に好きになれない展開もあったけど、最終的にはうまく収まっていたのでよかったです。2019/04/07