内容説明
別荘の管理人ビルが大声を上げて指さしたものは、深い緑色の水の底でゆらめく人間の腕だった。目もなく、口もなく、ただ灰色のかたまりと化した女の死体がやがて水面に浮かび上がってきた―フィリップ・マーロウは化粧品会社社長の依頼で、1カ月前に姿を消したその妻の行方を追っていた。メキシコで結婚するという電報が来ていたが、情夫はその事実を否定した。そこで、湖のほとりにある夫人の別荘へ足を運んだのだが……ハードボイルド派の巨匠チャンドラーが名作『長いお別れ』に先駆けて発表した、独自の抒情と乾いた文体で描く異色大作
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
59
失踪した化粧品会社の社長夫人の行方捜索を依頼されたフィリップ・マーロウが警官や犯人やらに何度も散々痛めつけられながらも不死身のハードボイルドぶりを発揮して解決してゆく。今回はストーリーがいささか込み入っており犯人も見極めがつかない仕組みだった。マーロウはいささかよれよれ気味であり、これで報酬はわずか500ドルというのだから、小説とは言え私立探偵稼業は好きじゃなければやれないと思った。推理100。2022/09/20
催涙雨
59
一年以上前から短編全集を積みっぱなしにしているので、チャンドラーの作品を読みたければそれに手をつければいいわけなのだが、なぜか一向に読む気が起きない。そのくせこうしてときどきチャンドラーの作品を、というかマーロウものを読みたい気分のときがある。なんでもよかったのだが、いちばん好きだった記憶のある本作を再読した。「いかにもビル管理人といった顔の蒼白い無帽の男が自分が痛い目に遭っているような目つきで作業を見つめていた」初っ端からこんな素敵な文章が迎えてくれる。再読してよかった。2020/01/05
まつうら
56
悪い女が登場して事件を引っ掻き回すのは、チャンドラー作品の定番。この作品でも、依頼人の妻クリスタルとか、いろいろな悪女が登場し、事件におもしろく花を添える。その中でもミルドレッドは本当に悪い女で、邪魔になったとみるや男女を問わず、ためらわずに殺していってしまう。この悪女を称して「男に輪をくぐらせることのできる女」とマーロウが語るのは印象的だ。そんな輪をくぐったひとりがデガーモ刑事で、なんとも憐れな男。タフでスマートなことを気取っているが、マーロウほどの知恵はない。でもなんだか憎めないのは、なぜだろう?2023/02/21
くたくた
51
『タフでなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない。』ハードボイルド読書会、チャンドラー5冊目。これはすんなり読めて面白かった。最後の2行目までは本格ミステリー。最後の1行でハードボイルドになった感じです。どんでん返しも王道で好みでした。毎度ハラハラさせられるマーロウ、今回も後頭部を強打されて昏倒。生きているのが不思議。パットンがいい味出してる。面白かったです。2018/07/26
催涙雨
37
複雑な人間模様に起因する幾重にも重なりあう事件、それを豊かに彩る情景・心理描写などの魅力は変わらないが今までの作品の中でも特に推理や展開の無茶や強引さが薄く推理小説としての体裁が良い。特定の人物の存在そのものが二転三転し衝撃的な真実が提供される。特にデガーモにはマーロウと一緒に読者も振り回されること請け合い。脇役の活躍が渋いのも変わらないが特にピューマ・ポイントのパットンは最初から最後まで粋で年の功を見せ付ける最終盤はとても印象的。作品を追うごとに面白くなっているように思う。今のところこれが一番好き。2017/09/23