内容説明
宇宙の果てを見通す、世界最大級の望遠鏡を日本人の手で創りたい。夢としか思えないこの試みに挑んだ本書の著者ら天文学関係者は、粘り強く数々の困難を乗り越えていった。最大の難関である国家予算枠の獲得でも、「禁じる法律はない」という事実を拠り所に働きかける著者に霞ケ関も動かされ…未曾有の科学プロジェクト「すばる」建設の統括推進役を務めた著者が自らの天文学者としての歩みに重ねて綴る、稀有な科学実録。
目次
大望遠鏡の夢
国境を越えて
先端技術への挑戦
禁じる法律はない
「人類の眼」を創ろう
アストロ・ハート
変革の風の中に
著者等紹介
小平桂一[コダイラケイイチ]
1937年生まれ。1959年東京大学理学部物理学科卒業。ドイツ・キール大学理論物理学研究所、カリフォルニア工科大学、東京大学理学部などでの教育・研究歴を経て、1982年東京天文台(のちに国立天文台に改組)教授。専門は銀河物理。1980年より大型望遠鏡をハワイ・マウナケア山頂に設置するプロジェクトを推進。1994年より国立天文台長の役職に就き、「すばる」の完成まで漕ぎつけた。2001年より総合研究大学院大学学長(現職)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ポルトン
48
総工費400億円、口径8.2mの一枚板鏡の開発等、多くの課題と難題を抱えたまま動き出した巨大プロジェクト。中でも国有財産の海外設置(他国の領土内)は、フィリピンにある戦没者慰霊塔しか前例が無く、すばる望遠鏡のハワイ・マウナケア山設置の最大の障害となった。「人類の眼を作りたい!」そんな願いから生み出された世界最大級の光学望遠鏡。ファーストライト(初観測)の成果は? 果てしない夢を追い続けたスターゲイザー達の奮闘記。2018/07/08
おせきはん
27
すばる大望遠鏡プロジェクトを牽引した天文学者が、完成までの道のりを振り返っています。国会議員や公務員、ハワイの関係者や民間企業との折衝などを積み重ねて実現に至るまでの紆余曲折を知り、ご努力に敬服せずにいられませんでした。また、奥様とのエピソードが時折入ることで、堅苦しくなく、人間味溢れる回想録になっていました。2022/10/09
Yoshiyuki Kobuna
6
小平桂一先生の自伝的な半生記からすばる望遠鏡に関る部分を抜粋したともいえる本書は、さらに日本現代科学発展史である。読者となった者は、すばる望遠鏡開発に関わりのある人物が有名無名を問わず綺羅星のごとき輝きを放ったその時代時間を、飄々と達観した味わい深い文体で表された中に観測するだろう。2018/09/22
AR読書記録
4
やっぱり、20年の軌跡の多くが、そしてこの本の内容の多くが、関係省庁との折衝などのビジネス上の苦労に彩られていて、単純にわくわく目をきらきらさせて宇宙への夢に溢れて読む、というものではないな。単純に外国のやり方がいいってもんでもないが、大企業や大富豪が世のため人のためにぽんとお金を出す精神は、あるのがぜったいいいなと思う。で、なんだ、プロジェクトX、あるいは情熱大陸的に(強引なまとめ方やな)読むなら、異国で出会い、家族になり、お互い目標に向かって邁進する夫婦の絆を描く部分が、しみじみ印象に残る。2015/07/24
mike_sugino
3
図書館で借りて読了。元国立天文台長であった著者が1980年当時から、ハワイにすばる望遠鏡を完成させるまでの約20年に渡る苦闘を綴ったドキュメント。当時は東京大学が管轄する東京天文台など各天文台を国立天文台として統合して国家予算を使えるようにし、自身が天体観測を趣味とする故与謝野馨氏をはじめとする文教族議員の勉強会を立ち上げたり、予算確保のため文部省通いを始める。時折挿入されるドイツ人の奥さんとのエピソードもほっこり(WRCファンにとってはマドンナ的存在だった小平桂子アネットは著者の娘さんだったとは)。2018/06/10