出版社内容情報
沼地に孤立した館で遺産整理にあたる青年を襲う恐怖。英国伝統のゴースト・ストーリーに新たな光をあてた傑作が、映画化を機に新装版で登場
内容説明
広大な沼地と河口に面し、わずかに水上に出た土手道で村とつながるだけ。その館は冷たく光りながら堂々とそそり立っていた。弁護士のキップスは、亡くなった老婦人の遺産整理のため、館にひとり泊まりこむことになる。だが立ちこめる霧があたりを覆うと、想像もできなかった怪奇が襲いかかった…孤立した館にしのび寄る恐怖をじっくりと描きあげ、伝統ある英国ゴースト・ストーリーの歴史に新たなページをひらいた傑作。
著者等紹介
ヒル,スーザン[ヒル,スーザン][Hill,Susan]
1942年英国ヨークシアのスカーバラ生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジ在学中に処女作を発表。それ以降、小説、戯曲、評論、ラジオドラマ、児童小説、エッセイなど多方面にわたって活動している。1983年発表の『黒衣の女―ある亡霊の物語』は、舞台劇、テレビ映画、ラジオドラマとなり、とくに舞台劇は1987年の初演以来現在に至るまでロンドンのウェストエンドでロングランを続けている。さらに2012年には英国ハマー・フィルムの製作で劇場映画化された
河野一郎[コウノイチロウ]
1930年生、東京外国語大学名誉教授、フェリス女学院大学名誉教授。専門は比較文学、翻訳(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
180
弁護士だった語り手は或る老婦人の遺産調査のため無人の館を訪れる。晩秋の沼地を渉る風の音や水面のきらめき、崩れかけた礼拝堂と沈みゆく太陽。刻々と変わる風景の中で彼は見てはならぬ黒衣の人影を見てしまう。街に戻った後、人々の制止を聞かず再び館へと赴く。館での孤独な書類整理や一杯のシェリー酒の味、テリア犬と分かち合う夕食など静かな時の流れから、やがて空気さえ感じ取れる闇の中で耳を澄ます。この廃墟ともいえる館での孤独感がすばらしい。夕に見た黒衣の人影と相俟って慄然とさせられるのである。ゴシックホラーの傑作。19832020/09/10
ケイ
124
ミステリだと思って読み始めたのだけど、ぞぞぞぞ~ぞくっときた。これは夏に読むのがオススメね。まさに生きている犬と、痩せさらばえた黒衣の女との対比が見事だった。だからこそ、怖い場面に近づくとき、息をひそめる悪霊が見える気がした。あ~、成敗してやりたい。2020/04/16
mocha
114
沼沢地を覆う霧、古い館、開かずの間、窓辺の幽霊…。完璧!英国のゴースト・ストーリーはこうでなくちゃ、というお手本のような作品。へんな言い方だけど、安心して怖さを楽しめる。夜の土手道で霧に迷うシーンや、何かを察知したわんこの仕草などがありありと目に浮かんできた。映画の続編は原案のみ参加とのこと。小説化してくれないかな。2017/08/18
hit4papa
74
古いお屋敷に起きる怪奇現象をしっとりと描いた典型的な英国ゴーストストーリーです。家主が死して遺産の整理にきた弁護士が、夜になると離れ小島と化す屋敷の中でひとりきりの日々を過ごすのですが、派手に恐怖を煽り立てるものではありません。主人公を暴力的に攻撃するのではなく、じわじわと不可思議な現象が積み重なって、精神的に追い込んでいくわけです。村人たちが黙して語らない黒衣の女は何者か。この手のゴシックホラーは、如何に脳内で恐ろしさを増幅できるかを楽しむにがコツでしょうね。ラストはしっかり怖い思いをさせてくれます。2017/11/11
眠る山猫屋
60
映画も観たし、違いを感じながらの再読。原作の方が、主人公アーサーを襲う恐怖の密度が濃いようにも思う。短期滞在な分かもしれないが。デイリー氏が貸してくれたスパイダーというテリアがいてくれるだけで、館にまつわるヒシヒシと迫る恐怖が随分と薄れた。セカンド主人公じゃないのか?スパイダーが出てこない(たぶん)映画も風景なんかはとても美しいので、観てみて欲しい。ラドクリフ君だし。2019/04/13