内容説明
生まれてから一度も、怒ったり喜んだり悲しんだりしたことのない少年、本海宥現。家族との感情の絆を持たない宥現は発砲事件にをきっかけとして、砂漠の旅に出た。砂漠には、街に住むことを拒絶する人々、旅賊がいる。夜の砂漠で、火を囲み、ギターをかき鳴らし、踊る旅賊の中に、運命の女・魔姫がいた。だが、突如、砂の中から現われた、戦車のような巨大なマシーンが、宥現と魔姫の間を非情にも切り裂く。それは、すべてのものを破壊しつくす過去からの殺戮者だった…。未来と過去の争闘に巻き込まれていった少年・宥現を描く本格SF。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤原
20
読み始めてすぐに分かった。「あ、これ訳わかんねぇ方の神林だ!」(失敬)。絶対殺すマン戦車と終わらない戦いを続ける感情の無い男の話。砂漠、死者の町、現代都市、ゴーストタウン。様々な時空が目まぐるしく入れ替わり、さして長くもないのに大ボリュームに感じられた。死者の町の世界観が好きだな。いまひとつ分からないなりに思い切り楽しめたし、ラストシーンはタイトル通り、まさに完璧な涙でとても美しい。2019/04/12
陽@宇宙望遠鏡⭐︎星と宇宙
17
大事にゆっくり読もうと手に取る一冊。空白を埋めたい気持ちは宥現にもわかった。だが過去と現在が連続している必要は感じなかった。名乗る時の干上がった海の海、の説明。目薬の涙の優しさ。恩田陸常野物語の哀しさに通ずる。そのように生まれたのなら、そのように生きることだ。悲しみはわからないが悲しませたくはない。一変、それの完璧なる行動と反応の美しさ。これもまたAIとloTの先の未来か。感情のない宥現とのリンクかと思いきや。ルールによるそれの行動原理と無感動症の宥現の対比が見事。電気羊は夢を見るのか。若しくは巨神兵。2016/01/14
白義
14
理論的で、そして荒々しい衝動性も兼ね備えた一級の時空SF。神林長平作品の中でも理論は難解だと言われていて、そして舞台もしょっちゅう流転するが、実は根幹で起きていることは単純だ。未来と過去という次元そのものの領域戦争。その余波により起きる混乱し、破綻した時空。死者が対峙になり、過去も未来も同居する幻想的な風景は全てそのたった一つの戦争の反映に過ぎない。そこで感情を求める、感情なき男と、彼の運命の女であるヒロイン、そしてこの小説における現実の象徴である「それ」こと戦車。時間と感情を結びつけた完璧な結末が最高だ2019/01/05
ひみーり
11
時間と空間の法則が乱れる。上級者向け2023/02/11
K・J
7
私はSFも小説のこともわかっていないから誤読を許してほしいのだが、これはSFで「異邦人」をやろうとしたのではないだろうかと思っていたが、途中からまったく予想が違っていて、驚かされるばかりだった。こいつはすごい。あまりにも主人公が他人事ではないのは、私は、だけどこの作品に強い「異邦人」臭を感じたからだ。感情のなさはあまりにも感情を豊かにあらわすのだ。完璧なSFであるし、ラブストーリーであるし、自分のなかのSFの「異邦人」はこの作品だ。日本人でよかった。この作品が読めて幸せだった。神林先生、バンザイ。2014/11/07