内容説明
遺伝子工学の天才ヴァージル・ウラムが、自分の白血球から作りだした“バイオロジックス”―ついに全コンピュータ業界が切望する生体素子が誕生したのだ。だが、禁止されている哺乳類の遺伝子実験に手を染めたかどで、会社から実験の中止を命じられたウラムは、みずから創造した“知性ある細胞”への愛着を捨てきれず、ひそかにそれを研究所から持ちだしてしまった…この新種の細胞が、人類の存在そのものをおびやかすとも知らずに!気鋭の作家がハイテク知識を縦横に駆使して、新たなる進化のヴィジョンを壮大に描きあげ、80年代の『幼年期の終り』と評された傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
66
以前、「ギブソンのスプローク三部作の復刊を」という感想に読書人さんのコメントでこの作者の名前を出していました。そしてまさかの大学図書館で発見。もしかして地球外生命体で血液桿状型寄生生物によって吸血鬼化した人々と人類のあり方を描いた『トリニティ・ブラッド』の元ネタかしら?現在、エボラ出血熱が収束していない状況なので自由意志を持つ真核細胞が接触することで感染する怖さがまざまざと伝わります。身体が変形していきながらも体内の真核細胞と対話しながら幸せになろうとするバーナード。幸福の意味も考えさせられるバイオSF。2014/11/10
催涙雨
47
切り口はパラサイト・イヴに近い印象なんだけど、つくり出された生命体の性質が異なるので以降中盤くらいまではパンデミック風のパニックSFっぽい方向性になる。そこからは評判通り幼年期の終りと似た終末的世界にむかっていく。ただこの「幼年期の終り」を引き合いに出した評判自体があらすじのネタバレに等しいのは如何ともしがたいところ。まあ似たようなネタの後発作品は多いので仕方のないことなのでしょう。特徴的なのは観測者の程度によって世界が変容するというような旨のゴーガティの理屈が結末に繋がっていくことなのかなと思う。2021/03/12
若布酒まちゃひこ/びんた
32
きっとこれは物語じゃない。細胞の増殖みたいに、中盤以降急速に拡大する視野は、世界と呼ばれるものの守備範囲、世界を形作る因果律の動きそのもの。雪が燃える。2015/12/11
磁石
28
全身の細胞が、60兆個の細胞全てが知性を持ってしまったら。たった一粒の知性を持ったリンパ球が、体中の細胞たちを啓蒙し目覚めさせていく。そのことに人間は、体の支配者だと思っていた人間は戸惑う・怯える・殺そうと模索する。彼らを病気だと断じて排除しようとする。このままでは人は、人でなくなってしまう。だけど、彼らが織り成す整合性は/音楽は素晴らしい。何も失われない、優しさに満ちている。人間はひと握りの細胞群でしかなった、そのことをもっと自覚すべきなのかもしれない。2016/01/13
ふりや
20
グレッグ・ベアを読むのはアンソロジーに収録されていた『鏖戦』以来。とある天才科学者が発見した「知性を持つ細胞」が研究所外に広がってしまい、人類の存在を脅かすことに。クラークの『幼年期の終り』と比されたりもしているらしい、スケールの大きいハードSFです。中盤以降は章ごとに主に3人の視点から物語が進むのですが、これを重層的と捉えるか、ややスピード感に欠けると感じるかは読む人次第でしょうか?終盤のSF的なカタストロフも恐ろしいですが、個人的にはサスペンス・パニック小説として読んでもとても面白いなと思いました。2023/02/27