内容説明
恒星タウ・セティをめぐる二重惑星アナレスとウラス―だが、この姉妹星には共通点はほとんどない。ウラスが長い歴史を誇り生命にあふれた豊かな世界なら、アナレスは2世紀たらず前に植民されたばかりの荒涼とした惑星であった。オドー主義者と称する政治亡命者たちがウラスを離れ、アナレスを切り開いたのだ。そしていま、一人の男がアナレスを離れウラスへと旅立とうとしていた。やがて全宇宙をつなぐ架け橋となる一般時間理論を完成するために、そして、ウラスとアナレスの間に存在する壁をうちこわすために…。ヒューゴー賞ネビュラ賞両賞受賞の栄誉に輝く傑作巨篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
74
文化と思想が真逆で不干渉なウラストとアナレスには、冷戦時の西側(資本主義)と東側(共産主義)だなと思ったり。そしてシェヴェックの異文化への静かな驚きにはクラークの『都市と星』と重ねてしまう。一番、印象的だったのはシェベックの生みの母親が会いに来た場面。自分の人生を大切にするために子供を所有することを辞めた母。それでも子供に会ったのは自分と社会における血の繋がりをどうしても求めてしまったから。矛盾しているけど、現実にも起きている関係だよな。ラストはA rolling stoneを聴いた時のように清々しい。2016/12/18
南北
53
社会主義の思わせる惑星から資本主義を思わせる惑星に来た人物を通して語られる物語は、過去の話と現在進行の話が交互に語られるので、何の物語なのか把握しにくいところが面白いとも言えるし、難点とも言える。社会主義の方に問題点が多いのだが、資本主義の側にも問題がないわけではない。そうした中で主人公が選んだのは自分の構築した理論を「所有しない」という選択肢だった。原著は約50年前の作品だが、作者から読者に向けた挑戦状とも言えるこの問いかけにどう答えるかを考えていくと詠む価値が増していく作品だと思った。2022/07/06
つねじろう
45
結構理屈っぽいけどそれは仕方がない。SFって未来の主義や思想哲学を反映した社会的機構を描くか先進科学的未来や時間的なものを描いてるのだから必然的にそうなる。主義主張も社会システムも両極端のアナレスとウラス。双方とも苦悩があり限界もある。その狭間で純粋に真理を追い求めるシェヴェックが良い。そのオールターナティブ的選択だけでなく。そろそろ違う事つまりその多様性をリスペクトして明るい未来が見える的な物語も出てこないかなぁって思う。そんなユートピアは面白く無いかもしれないけどそれこそSFでしか描けない筈だから。2017/05/31
Small World
33
「闇の左手」に並ぶル・グィンの代表作である本書を読了です。「闇の左手」もそうなんですが、メジャーな割に暗く重たいんですよね~。だから読み上げてもスッキリしないのですが、その分、深い!感じです。資本主義と共産主義、男女格差など、さまざま社会問題をシミュレートするような物語は、ずっと考えさせてくれます。決して楽しくは読めませんが、興味深く読める作品です。(Wクラウン作品)2018/11/16
ふりや
18
「ハイニッシュ・ユニバース」と呼ばれる未来史シリーズのうちの一冊。異なる文化を持つ二重惑星アナレスとウラス。アナレスは無政府主義的な理想郷を目指す植民地。ウラスは資本主義的な大国。二つの国には相互の行き来はほとんどありません。主人公である物理学者のシェヴェックは、研究のためアナレスからウラスへ渡り、あまりにも価値観が違う二つの国の文化の間で苦悩し、葛藤します。『闇の左手』などと同じように、架空の世界をまるで実在するかのように描き出すグィンの筆力には本当に圧倒されます。重厚で示唆に富んだ素晴らしい作品です。2021/05/05