出版社内容情報
「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。究極の実験的長篇。
内容説明
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
359
相当、久しぶりに筒井康隆の本を読んだ。ひとつ、ふたつと次第に言葉が減って行く世界で、なんとか残った音で使える表現を駆使し、最後の「ん」の消失で終えるまでを完全に書ききったのは流石。ただやはり相当の制限のもとで物語的に面白いものを書くのはやはり無理だったようで、書く方も辛かったのだろうが同様に読む方としても苦行の様に辛かった。とにかく、読み終えました。2021/10/19
關 貞浩
276
使用可能な音が一つずつ減っていき、その音を要素に持つ存在(概念)も同時に消滅する。現実を微分し、唯心論を極限にまで具現化したような世界。登場人物たちは自分の存在が虚構だと知りつつ、いずれ消滅する予感を抱きながらも作者の意思(無意識?)をまるで自然の摂理のように感じて行動しているところが実にシュールだ。解説によればいくつかルール違反があったようだが、確認作業にはきっと膨大な時間を費やしただろう。深刻さを韜晦した、悲劇の喜劇化。一見楽しいドタバタ劇でありながら、現実の虚構性をコミカルに描くニヒリズムだと思う。2016/06/04
おしゃべりメガネ
261
『読書芸人』カズレーザーさんが紹介していた作品で、今さらながら筒井康隆先生の作品を初読みでした。「音」がなくなり、当然その「音」を持つ「言葉」が消えていく。そんな世界を描いた作品です。番組でも紹介していた'袋とじ'の部分は確かに開けたくなりますね。全体を通して果たして本作はやっぱりSFのジャンルに属するのか、なんとも言いがたい作風でした。自分的に食い入るようにのめり込めたかと言われると正直、ちょっとキビしかったです。ただ、こういう作品を書き上げることのできる筒井先生って、改めてやっぱり偉大なんですね。2017/11/25
bunmei
210
文字が消えていく世の中で、それに伴ってその文字を使った事象や人までも世の中から消えていくというシチュエーション。その辻褄合わせと限られた文字の中で、どう文章を構成していくのかという、実験的物語。こんな縛りを掛けて言葉を紡ぎ出した筒井康隆の語彙力と表現力には敬意を表するが、最初から難解な文章が続く。但し、後半には使える文字が一層限られ、表現が難しくなる中で、逆にどんな表現で挑んでくるのか面白みが湧いてくる。著者の計算尽くされ言葉遊びの術中に、いつの間にか陥る中で、特に密会シーンに、著者の熱量を感じた。 2022/01/14
nobby
207
これはスゴい作品に違いないけど、凄すぎて途中から置いてけぼり喰らった感じ…例えば「あ」の文字が消えると「愛」「あなた」など、それを含む語彙の存在が消えていく世界、これを順に続けて描かれた超実験的小説。気付けば4割弱が使えなくなっていた第一部の終わりまでは、まさかそんなに減っていると感じさせない滑らかな語りに驚くばかり。表現出来なくなった人や物が突然消える様や、回りくどい説明から予想出来る言葉にクスッとするのが面白い。ただ、第二部でもひたすら言葉の消滅が進むに連れて、よく分からない物語の収束に戸惑って読了…2018/02/25