出版社内容情報
文豪谷崎の流麗完璧な現代語訳による日本の誇る古典。日本画壇の巨匠14人による挿画入り絵巻。本巻は「柏木」より「総角」までを収録。〈解説〉池田彌三郎
内容説明
谷崎潤一郎という現代の代表的な作家のひとりが翻訳したというので、それは国文学者の専門的な仕事とは異って、一般の読者の注意を喚起し、そして、『源氏物語』は突然に、現代文学になった。それまでは、恐らく我国の古典小説で、現代文学同様に迎えられていたのは、西鶴と秋成だけだったのではなかろうか。しかし、ひとたび、『谷崎源氏』が世に行われるに及んで、空蝉や夕顔や浮舟やは、アンナ・カレニナやボヴァリー夫人らと同じように、私たちの身近のものとなったのだった。
目次
柏木
横笛
鈴虫
夕霧
御法
幻
雲隠
匂宮
紅梅
竹河
橋姫
椎本
総角
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syota
32
「柏木」から「総角」までを収録。「雲隠」までは光君の中晩年を描く第2部で、「匂宮」以降は光君没後の世界を舞台とする第3部に突入する。第2部の重要イベントは柏木の不倫と夕霧の不器用な恋だが、今回最も印象深かったのは紫の上の最後を描く「御法」だ。紫の上は知名度の割に、初登場の「若紫」を除けば鮮烈なシーンに恵まれず、浮気な夫に苦しむ本妻役に甘んじてきた。しかし「御法」での死を意識しつつ淡々と身を処す気品ある姿と、その後の光君の腑抜けたようなありさまは、紫の上が源氏最大のヒロインだったことを再認識させてくれる。⇒2020/06/25
かごむし
25
3巻までの優雅な舞台が一転、雅やかに見える人たちの哀しさ、切なさを描き出す巻であった。悲しすぎて、何度か本を置かなくてはならなかった。読み進めるのが困難な時もあった。そこに血の通った人間がいる。それが源氏物語の面白さなのだろう。いよいよ長かった物語も、次で最終巻。巻を重ねるごとに、豊かにふくらんでいく物語であり、5巻も非常に楽しみであるけれども、この先のストーリーを知らないので、物語の展開によっては、もはや感情移入しすぎてしまって、最後まで読み切れるかどうかが不安なところではある。2015/10/08
mm
22
この巻の真ん中あたりが「雲隠れ」これ以降は違う作者が複数いる説があると聞いていたが、本当にそうかもしれない。物の細々した描写が減ってる気がする。文の一つにしたって、紙質・紙色・筆・チラシ方・墨の濃さ・何に載せるか・薫きしめた香・折り方とか細かい時はかなり細かいのだが、宇治十帖からはあまり細かくないような…前に書かれたことが重複してるところもあるし、何かと話が前後するのも不思議。しかし神的光源氏がいないし、時代も場所も隔絶してるから、雰囲気変わっていた方が説得力あるよね。2017/05/25
いろは
20
『橋姫』に、「色にも香にも未練がなくなりましてからは、昔嗜みましたこともすっかり忘れてしまいました。」という文章がある。この場合の「色」ってなんだろう。「香」ってなんだろう。色々と考え巡らすのが楽しい。『総角』に、「…もともと人とは違っていらっしゃるご本性のせいでございましょうか、…」という文章がある。「人と違っている=変わっている」ということでもあり、谷崎源氏にも、しばしば「変わっている」という言葉が出てくるが、この時代の「変わっている」ってなんだろう。「変わっている」って、私もよく言われているのだが。2019/03/04
こうすけ
11
谷崎源氏第4巻。前巻があまりに面白かったので連続で読む。今巻で主人公が交代。源氏物語の根幹は、光源氏と紫の上の物語なのだと知る。その源氏の死は、まさかの省略によって語られるという素晴らしい表現。この国では神の死は説かれない、という解説にも感動。つづく話は、源氏の孫であり今上帝と明石中宮の子である匂宮と、女三宮の不義によって生まれた薫という、性格や境遇の異なる二人の物語。ある姉妹との四角関係(?)がメインで、光源氏のときのような政争がないので、めちゃくちゃ読みやすい。年内に読み終えられて良かった。2022/12/31