中公文庫<br> 蛍

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中公文庫

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  • サイズ 文庫判/ページ数 284p/高さ 15X11cm
  • 商品コード 9784122015784
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C1193

内容説明

たしかな生の軌跡を刻む人びとからは離れて、ひっそりと、危うく、生きつづける人間たち。その彼らさえ見逃しはしない、人生の出来事。遅い結婚生活をはじめた看守の特別休暇を描く「休暇」、角膜移植手術に全神経を集中させる、医師の不思議な日常を追う「眼」、幼い弟を川で事故死させた少年の内心をみつめる「蛍」など。ささやかな生活のなかに潜む非現実をとらえて、心にしみ透る、忘れられない小説9篇。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

kinkin

117
「死」をテーマにした短編集。死刑執行に携わることになった刑務官と彼が過ごした休暇の話、「蛍」幼い兄弟に起きた不幸な生と死の対比、末期の癌を知った男性と家族と兄弟他。私自身は表題作「蛍」がベスト。吉村作品が好きなところは生や死を感情を抑えたかつ淡々と、じっくりと捉えて書かれていることだ。書かれている時代的には昭和だと思う。人同士の絆は今よりずっと濃い頃。上っ面の言葉だけの絆とは違うことを感じた図書館本2022/02/02

キムチ27

44
文庫本解説にある通り、冷徹な視線と観察眼が光る短編ばかり。薄いはずなのに、酷く疲れた読後。自分が安穏と生きているからだろうか。様々な職に従事している人がある意味、特殊な設定状況で心が揺れ動くさまがひりつく、読むほうも同様に心が共鳴する想い。昭和中期~後期にかけての時代が描かれているからだろうが、あの時代(といっても子供だった私には荒削りの感覚でしか見えておらず、こんなものだったのかぁとの思いが濃い)の描写が作者ならではの一流のペンになる。表題の「蛍」が切り取られたシーンながら当事者である兄に慄然の思い。2015/09/17

Shoko

33
緻密な描写が登場人物の視線の先、眼に映る世界をはっきりと眼前に見るように感じられた9編の物語。どの話も死の匂いが色濃く感じられ、幼い弟を川で事故死させた少年の内心をみつめる「蛍」は特に読んでいて辛かった。「時間」は実体験に基づく話しなのか?以前読んだ「冷い夏熱い夏」を思い出した。2018/08/02

たぬ

30
☆4 今回のチョイスも短編集。9編のうちいくつかは自身の体験をもとにしているのでしょう。どの話も派手さはなく淡々と紡がれているけれど、だからこそなのか切なさや悲しさが余計に内包されているみたい。それは死がメインテーマとなっている話が多いことだけではない気がします。タイトル作は幼い弟の死に責任を感じる姉の姿がとりわけ痛ましく、「時間」での最期のシーンは圧巻の迫力でした。2022/01/08

ykshzk(虎猫図案房)

18
裏表紙にある「たしかな生の軌跡を刻む人びとからは離れて、ひっそりと、危うく、生きつづける人間たち。」との文句に誘われて。丁寧で緻密な九篇の短編小説。ヒグラシの声を聴きながら畳の上で読むのにとても相応しい本。誰でも生きていくのは容易ならない。でも、容易ならない生が当たり前の生なんだということを考えさせられる。自身で点滴の管を抜いて最期を迎えたという著者の死生観と繋がる小説達のような気がしてくる。表題の「蛍」は、子どもの複雑な心境を見つめる切なくも心に残る一篇。子どもの心は大人の想像以上に成熟しているもの。 2020/08/05

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