中公文庫<br> 花渡る海

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中公文庫
花渡る海

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  • サイズ 文庫判/ページ数 391p/高さ 15X11cm
  • 商品コード 9784122015456
  • NDC分類 913.6

内容説明

極寒のシベリアに漂着し、死線をさまようこと3年余り。わが国に初めて西洋式種痘法をもたらしながら、ついに発痘の花を咲かせることなく散った水主久蔵。歴史のかげに埋もれた、海の男の波瀾万丈の生涯を追う傑作長篇。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

yoshida

87
時代は江戸。ゴローニン事件の頃。破船でカムチャッカに流れ着いた久蔵の生涯。どうしても黒潮に流される船は多かった。漂流の末に辿り着いた先は極寒のロシア。仲間が息絶える中、久蔵は奇跡的に救出される。ロシア人の温情もあり何とか生き延びる。再発した凍傷を外科処置するも、予後状況から仲間が帰国した後もロシアに残る。外国語教師としての勧誘を断りつつ、医師から種痘を学ぶ。種痘の器材を携え帰国するも寂しい晩年が待つ。激的な生涯。種痘は偏見と無知から広まらなかったが、やむを得ない事と思う。帰国後の晩年に無情がある。力作。2022/05/29

キムチ27

48
本の半分が漂流から生きていく第一歩を踏み出すまで。特にあれ狂う海での男ども、一人死に、また一人・・というシーンが実に細かく綴られる。文庫本の装丁がそのまま。江戸末期、ロシア船がぼつぼつ北海道の港に姿を現し始めた時、雰囲気が登場人物の朴訥な語りの味わいをよく出している。生きていくだけでも辛いシベリア。今でも学習には難解なべストに入るであろう露語をマスターし、我が国に初の種痘をもたらす足掛かりを作った。が、花は開かず(私も初めてこの方を知った)・・「哀れな人生であったろう」といえばそれまでの波乱万丈の傑作。2015/09/17

mondo

34
灘の新酒を千石船で江戸に搬送する途中でシケに遭い、遠く極東のシベリアに漂着したものの、厳寒の地で時代に飜弄させられる物語。というところまでは、吉村昭の小説、大黒屋光太夫や北天の星などでも味わった筋書きでしたが、今回の花渡る海では主人公の久蔵が日本に初めてロシアから西洋式種痘法をもたらしながら、ついに発痘させることが叶わず、歴史のかげに埋もれた男の生涯を描いたものでした。吉村昭の小説はそうした歴史の影に埋もた人間の生き様を淡々とした調子で描いていきますが、今回も味わい深い歴史の一端を知ることが叶った。2021/02/17

たぬ

33
☆4 月初めに読んだ『間宮林蔵』ではなにこの野蛮人…と思ったけど今作に出てくるロシア人は人情味あふれる温かい人ばかりだった。それにしてもシベリアの過酷さったら。久蔵が足先の切断だけで済んだのは幸運だったのだろうな。平気で屋外で過ごせる犬たちの耐寒性能がうらやましい。吉五郎が実に頼れるリーダーなのも強く印象に残った。せっかくの痘の種はまたしてもスルーされてしまって無念でならないね。2022/04/11

ぼちぼちいこか

25
吉村昭の漂流モノ。安芸国川尻浦の久蔵は実家が貧しく幼くして禅寺に入ったが大人になってから千石舟の水主として働らくようになる。新しく造船された船が灘から新酒を積んで華々しく出航し、江戸に向うはずだった。天候が急変し船は願いもむなしく漂流してしまう。流れ着いた場所はロシアだった。ロシアの過酷なほどの寒さと漂流者の末路が哀れだった。久蔵にしても牛種痘の術を身に着けていたが藩から一蹴され無念のままこの世を去る。資料に基づいた緻密なストーリー構成はさすが。2022/08/06

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