内容説明
20世紀が生んだ「慢心した坊ちゃん」大衆と大衆社会の病理を説く。
目次
第1部 大衆の反逆(密集という事実;歴史の水準の上昇;時代の高さ;生の増大;ある統計的事実 ほか)
第2部 世界を支配する者はだれか(世界を支配する者はだれか;真の問題に到着する)
著者等紹介
オルテガ[オルテガ][Gasset,Jos´e Ortega y]
1883~1955。スペインの哲学者。マドリッドに生まれる。マドリッド大学卒業後ドイツに留学。27歳でマドリッド大学形而上学教授に就任。1914年、『ドン・キホーテをめぐる思索』で初めて自らの哲学的立場を明確にし、「私は私と私の環境である」という有名な命題を発見する。1930年に発表した『大衆の反逆』は、彼の名を文明批評家として広く世界に印象づけた。スペイン内乱に際し外国に亡命、1945年に帰国し、故郷の知的復興に尽力した
寺田和夫[テラダカズオ]
1928年(昭和3年)横浜生まれ。東京大学理学部人類学科卒。1958‐69年、東京大学アンデス地帯学術調査団の一員としてペルーの考古学遺跡発掘調査に従事。東京大学教授。専門は文化人類学、アンデス先史学。理学博士。ペルー共和国特別功労賞。1987年(昭和62年)逝去
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感想・レビュー
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シュラフ
26
義務と権利という概念を持ち込むことで『大衆の反逆』という書物の理解はすすむように思える。例えば、巨額の財政赤字を放置すれば日本という国家は滅亡の危機に追い込まれるのは間違いない。増税や公的年金の削減は必須であるが、政治家は国民の反対を説得することはできない。個人の権利主張が強くなってしまったことで、国政の正しい舵取りができなくなる。文化は社会的規範をつくり、社会的規範は義務をつくる。経済成長維持という名目で文化の異なる外国移民を受け入れることは長期的には国家の衰退につながる。主権在民について疑念を持て。 2018/09/16
さきん
19
現代の危機的状況を大衆の反逆という現象を通して指摘している。大衆の反逆とは、「大衆が完全に社会的権力の座に上がったこと」であり、現代の特徴は、「凡俗な人間が、自分が凡俗であることを知りながら、敢然と凡俗であることの権利を主張し、それをあらゆる所で押し通そうとするところにあり、その責任は、すぐれた少数者の指導やリーダーシップの欠如にあり、彼らが大衆に生のプログラムを与えなかったことに由来する」と説いている。2015/08/14
のんぴ
18
「自分の豊富さの中で途方に暮れている」(P47)本来の生の実現がわからない私にこの言葉がささりました。EU構想を1920年代に提言していたオルテガ、カタルーニャの独立運動や、自国ファーストも予見していたのでしょうか。衆愚政治が混乱を招くのは必至ですが、貴族的な精神の持ち主がそもそも稀有な存在となった今、適切なリーダーを選ぶのは至難の業です。2018/01/26
しゅん
18
オルテガ諸作を読んだ後で再びここへ。一読した時に感じたアジテーションな態度は実は冷静な分析だった。オルテガは大衆であることをやめろ、とは決して言わない。その行為自体が大衆的であり、全てを貴族化させようとした瞬間に最悪の大衆へ転じるからだ。ナチスを見てみればよくわかる。個人の倫理に全てを委ねたところに作家の慧眼が存在する。学者の専門化、その結果の総合知の損失など今の世界に通じる具体的な問題提起も多く見られるし、大衆論が国家論に繋がるところは未だ難解だし、やはり何度読んでも刺激的な本だな。2017/02/17
とうゆ
14
◯大衆。それは向上心や謙虚さがなく、自分が凡人であることを誇りに思い、根拠のない万能感を持ち、何かに縛られることを徹底的に嫌う人々。近代までは、彼らに大きな権限はなかった。国は一部のエリートが動かし、大衆はそれに従っていれば良かったのだ。しかし現代では、大衆が余りにも大きすぎる権力を持っている。そのことによる弊害は甚大で、破壊的な被害をもたらしてしまう。現代の問題を鋭く指摘していて、読んでいて冷や汗が出てくる本だった。いつか再読しようと思う。2014/09/21