内容説明
さびれた温泉街を見下ろす大きな湖のほとり、遊歩道の奥にある「お休み処・風弓亭」の三姉妹。次女・悠は東京へ出て女優を目指し、高校生の三女・花映も外の世界に憧れている。26歳の長女・灯子だけが、生まれ育った場所でいつまでも変わらぬ生活を望んでいた。ある日、一人の青年がやってきて街に住み着く。妹二人は彼こそが灯子の「運命を変える」のではと噂するが…。
著者等紹介
青山七恵[アオヤマナナエ]
1983年埼玉県生まれ。筑波大学図書館情報専門学群卒業。2005年、大学在学中に書いた「窓の灯」で第42回文藝賞を受賞しデビュー。2007年「ひとり日和」で第136回芥川龍之介賞受賞。2009年「かけら」で第35回川端康成文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おしゃべりメガネ
193
雑誌『ダヴィンチ』で紹介されていた【人に優しくなれる】作品とのことで手に取りました。さすがは青山さん、最初から最後まで本当にずっと‘優しさ’が溢れ出ている素晴らしい作品でした。とある温泉街のはずれにて喫茶店を営む3姉妹の話で、3者三様に個性的ですぐに引き込まれます。母親がいなく、その理由を知っているのは長女のみで、その長女を中心に物語が展開していきます。人を好きになるのも、憎むのもそれ相応の出来事や思いがあり、深く考えさせられる内容でした。きっと青山さんが書くから、こんなにも温かい雰囲気なんでしょうね。2016/09/19
Lara
86
26才灯子、アルバイト·悠、高校生·花映の3人姉妹。湖畔のお休み処「風弓亭」を運営する灯子を中心に、周りの人たちとの交流がたんたんと、物語が進む。それなりに出来事が起こるが、灯子は自分なりに無難に対処していく。これと言った魅力、個性、主張が無く、淡白な印象。最後の土壇場で、どたばたするが、やっぱり主人公が没個性的。もっと大声で、はっきりとした主張が欲しかった。淳次との結婚は、早く決めてしまいましょう。2022/02/18
ベイマックス
83
多分、初読み作家さん。田舎の湖畔に土産物兼食堂を父親の源三から譲り受け、叔母の芳子と二人で切り盛りしている主人公の灯子。灯子、悠、花映の三姉妹と源三の四人家族と、芳子の息子や幼馴染や家を出た母や、その母が家を出るきっかけとなった過去などが、ゆっくりと語られていく物語。◎ふ~ん…、灯子が辰生に母親のことを問いただす場面と、三姉妹が母親に会う場面は、もう少し感情の起伏とか叱責や罵倒シーンがあってもいいのかな。全体的には、穏やかな土地・季節・人間関係の中での物語にゆったりと読んだけど、まとまり過ぎかなとも思う。2020/12/04
なゆ
73
静かで穏やかで。なのに途中から一気に読まずにいられなかった。山の上の湖畔というちょっと寂れた観光地、そこの食堂〝風弓亭〟の三姉妹と父親。長女灯子のどこか諦めきったような空気と、感情を押し殺したような感じが、なにか秘密を匂わせる。そんな灯子の心情の揺れ動きが時々ガッと大きくなる、その抑圧された苦しさの表し方がさすが。湖畔の風景、目に入る景色の情景描写も繊細で、読みながら目に浮かぶようだった。穏やかそうで穏やかならぬ作風だと思ってたのにこんなに読後感がいいなんて、意外。全体的に、静かで優しい映画を観たようだ。2017/01/19
ひめありす@灯れ松明の火
58
考えれば結構長い付き合いの青山さん。ふわっとスカートが空気を孕む一瞬の様な、水たまりに投げた小石が思いのほか大きな波紋を描いている様な、そんなじわっと広がる空気感のある文章が繊細で美しい方です。何かあるわけでもなく、素朴で淡々とした日常の物語である事も相まって、主人公の灯子がまるで青山さんの様に思えました。古びてゆく何かに掴まって居る様で、今にもするりとぬけだしてしまいそうな人。彼女は自分の意思でここにいて、自分自身も目指す灯りをちゃんと持っていて、さらに自分自身も、誰かを呼ぶ灯りになれる、素敵な人。2012/03/31