内容説明
日本が生んだ天才作曲家の執筆活動の全容。武満徹が残した多くの文章は、深い洞察と自在無碍な批評精神に溢れ、彼の音楽創造の核心に触れるために欠かすことのできないものである。武満が死去して4年、ここにその魅力的な言葉の世界を集大成する。
目次
音、沈黙と測りあえるほどに
樹の鏡、草原の鏡
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばんだねいっぺい
20
「どですかでん」で一気にファンになった。鳥は、同じうたいかたを一生涯しない。未分化なもののよさ。音の河など、武満さんならではの気づきや名付けが豊かなものを与えてくれる。2024/08/31
松本直哉
15
繰り返されるのは、抽象的に記号化されて命を失った音と言葉への懐疑。沈黙と測りあえるほどの強い音を求めて、ガムランや日本の伝統音楽に耳を傾ける。とりわけ尺八の、本来の美しい音を殺す奏法で、竹藪を吹き抜ける風のように自然と一体となって人称を失った「さわり」への関心。伝統的な演奏会の、舞台と聴衆との固定化した関係に楔を入れる野心的な試み。決してティンパニを使わない作曲家の目指すのは、煙のように漂い、不安定に方向を探すような音。何度も立ち止まって考えることを促される文章でした。2016/10/26
のんたんの
5
ブレない軸。クリアな感覚。2010/09/23
いのふみ
4
音楽を「沈黙」から考えるのは発想の一大転換だったと思う。「音、沈黙と測りあえるほどに」の方が良かった。書きたいという意志に、やや言葉が追いついていない勢いに。そのもどかしさにすら、文学を、詩を、感じ、文章の緊密さは上がる。2018/08/22
毒モナカジャンボ
2
ものすごく自分を過大評価するような言い草だが、何十年も前に生きた自分ではないかという錯覚に陥った。七十年代以降のヨーロッパを衰退するものとして語るがしかし自分は西洋音楽に血骨を作られたものだ。最初は否定すべきものとして、幻想=国家として現れていた日本が、能楽の衝撃により内側から異貌を現してくる。ニューアカに代表されるような狂騒的なものとは全く縁のないところでただ一人自分の奥底にある他者を音と言葉で探し続けた武満徹。沈黙と格闘しようとした終止しない運動としての武満の”さわり”を、自分も聴き取りたいと思った。2020/05/20