内容説明
この蒼白き海で、男たちは生きた―。いま私は、あの海の真実を、生命の記録と臨死の風景を語りたいと思う。喪われた勇者たちのために。
目次
第1章 蒼白き海―出航から転覆まで
第2部 彷徨える筏―漂流27日
第3部 心の漂流―癒される日々
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
103
油壺からグアムまでのヨットレース。著者は自らが乗る予定のヨットが出航不能となりクルーを募っていた「タカ号」に乗船する。最初からあった違和感、しかしヨットの神様と呼ばれる武市氏と一緒という喜びがそれを上回る。そして起こった遭難事故、7人の内1人はヨットが転覆した時に死亡し6人でゴム筏二畳ぼどのスペースで過ごすが…27日後発見救助されたのは一人残った著者のみ。一人きりで大海の中恐怖、悲しみに堪え忍ぶ姿が痛々しい。救助後にも死んだ仲間や遺族への思いが溢れている。壮絶であり、正直な手記だった。読んでよかった。2024/04/04
James Hayashi
27
この新聞記事は鮮明に覚えている。ヨットレース中転覆し6名がライフラフト(ゴム筏)のわずか2畳ほどのスペースで、わずかな水とビスケットで命を繋ぐ。海水に浸かり体力を奪われ、緊急連絡装置も使えずその後損失。筏では脚も伸ばせず尿や鳥を食したという。6名は還らぬ人となったが、著者は諦めながらも27日に渡る漂流を生き抜く。広大な海の中孤独であり、死の間際であることを知り、連絡を取ることも逃げ出すこともできず絶望の境地であったろう。凄い生命力を感じたドキュメンタリー。2016/11/09
蒼
26
“Come inside, my friend.You're safe now.” 漂流中の筆者を発見し船に迎え入れてくれた『マークス・サイプレス』号のクルーがかけてくれた言葉に号泣してしまった。レースであれ漁であれ海の上は薄氷の上でギリギリ命を削るような時を生きる事なのだろう。だからこそ「海の男」という言葉に陸の上から見るだけの者は、憧憬を抱くのかもしれない。この著作はその甘ったるい感傷を木っ端微塵にしてくれる。ギリギリ命を削った著者のその後の人生が、凪の中にあって欲しいと思うのは、無責任だろうか。2023/11/24
Masakiya
10
名誠「僕がいま、死・・・」に言及されていたので20年ぶりに再読。91年12月26日三浦半島の油壷を出航し、グアムを目指すヨットレースでの遭難事故。12月29日転覆。乗員7名のうち1人が転覆時に水死。救命いかだで脱出した6名のうち4名が1月11日までに死亡。1人が1月16日に死亡。著者は1人残されてから、9日間を生き延びて1月25日救出された。死亡した乗員の死因は水不足からおこる腎不全、臓器不全だろうとは、著者が救出後に入院した医師の言。一人生き残った著者の心情は特殊なものがあろうが、自然相手の営みには死の2016/01/10
青木 蓮友
9
しかし、しかしだ。申し訳ないけれど、誤解を恐れず正直言うと、最期を見ていてくれる人がいるって、ごめんなさいちょっといい気がしてしまいました。生還してきっちりと仲間のことを済ませた佐野さんの、具体的に強靭な身体と心に大きな拍手。ご遺族の在り方もまた素晴らしく、心が洗われる想いでした。「自然という大きな力の前に人間が敗けた」「腹の中に、神様が居るような、」実体験から発せられる選ばれた言葉の凄み、、1月9日の出来事について、当事者の方々もっとしっかり頭を下げてよと思った。そして「希望」というものを思いました。2017/04/28