出版社内容情報
歴史研究部のぼくは、あの城址に現れた、うさん臭い大阪弁の男の博識にどうしようもなく惹かれていく。三島賞作家の受賞第一作。
内容説明
第166回芥川賞候補作。高校の歴史研究部に所属するぼくは、ある日皆川城址で中年男に出会う。男はぼくが入手した旧家の蔵書目録を奪い取ると、映画監督の縁戚にあたる小津久足の著作を指さし、『皆のあらばしり』などという本はこれまで全く記録されていないと言う。「まだ世に出てないものだってことか」「もしそうなら大発見やのー」男は満面の笑みでぼくの肩に手を置いた。うさん臭さに警戒しつつ、ぼくは男の博識に惹かれていく。幻の書の新発見か、それとも偽書か―。高校生のぼくと怪しい中年男は、「謎の本」の存在を追う。歴史謎解き+スリリングな会話劇+ラストの大逆転。本をめぐる知的愉楽に満ちた三島賞作家受賞第一作。第37回坪田譲治文学賞受賞
著者等紹介
乗代雄介[ノリシロユウスケ]
1986年北海道生まれ、法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年「十七八より」で第58回群像新人文学賞受賞。2018年『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞受賞。2021年『旅する練習』で第34回三島由紀夫賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
249
明日の第166回芥川賞発表前に候補作を漸く1作読みました(1/5)。乗代 雄介、3作目ですが、前2作の方が良かった。今回も残念ながら受賞はないと思います。 https://www.shinchosha.co.jp/book/354371/2022/01/18
ろくせい@やまもとかねよし
233
「ぼく」と「わし」の愉快な物語。落語のよう。歴史、知的好奇心、嘘も方便など多岐にわたる観点を持ち出すが、見事に収束させていく筆力に感服。栃木が舞台。だが、封建的な江戸時代、その後の混乱から迎える明治時代を巡らせ、栃木に留まらない広い視点を与える。そこから表現する受け継がれる歴史の虚構さ。知的な探究の利己性は、その無心さから時に利他性をも誘因する。新しい出会いや発見から生じる清々しい無学から、知ることの面白さを表現。しかし探究過程では他人を騙し奪うことも。そんな嘘で繋がる微妙な人間関係の可笑しさも表現する。2022/01/29
zero1
149
「旅する練習」に続く芥川賞候補(後述)。この作家は作品を通して私に深く鋭く問う。小説とは何なのかと。芥川賞以前に、この【挑む姿勢】を私は評価したい。純文学は起承転結を必要とはしないが【描いてはいけない】訳ではない。良し悪しは別にして終盤に驚きを見せるのがこの作家らしさ。並みの作家なら博識の男を描くと【ペダンチック】と批判される。しかし博識を突き通せば新たな世界が広がるもの。竹沢の登場はご都合主義。短いが濃い本書には名言あり(後述)。蛇に注意(笑)。2022/12/15
シナモン
140
評判が良いので図書館で見つけて読んでみました。歴史物は好きな方だけどなかなか話に入り込めず苦労…でも途中からは胡散臭い中年男と高校生の知的でリズミカルな会話を楽しみながら読み進めることができました。最後のどんでん返しには爽快感も。途中で読むのを諦めなくて良かったです。独特の空気感、読み心地を感じる一冊でした。2022/07/04
いっち
136
主人公は歴史研究部に所属する高校2年生。主人公が一人で課外研究をしていると、大阪弁の中年男に話しかけられる。男はうさんくさいが、歴史に詳しく博識。男はまだ世に出ていない幻の書を探していた。書の名前が「皆のあらばしり」。男が言うには「ほんまもん」の書。主人公は男に認められたくて、調査に協力する。男の手伝いをするだけでは認めてもらえないと思い、男をだまそうとする。だます―だまされるの関係なのに、読後感は爽やか。気になるのは本書のタイトルが幻の古書の名と同じであること。本作も「ほんまもん」という作者の自負か。2022/01/18