出版社内容情報
内容説明
生き延びるために、手を組みませんか。読む前の自分には戻れない。作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。
著者等紹介
朝井リョウ[アサイリョウ]
1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1478
対幻想が社会のあたりまえの構成要素であると信じて疑うことがない、おめでたくも無神経な種族(マジョリティはこれなのだが)に属する私にはとうてい想像も及ばない世界である。フェティシズムは理解の範疇にあるが、それもあくまでも人間に関わってのこと。私の想像の限界は(閾値を超えているような気もするが)ネクロフィリアまでである。これは「中身の見えるプラスティックカップに水を移し替えていく」ことに耽美と(性的な)陶酔(あるいは恍惚)を感じる人たちの物語である。重ねて聞くが、ほんとうなのだろうか?2021/10/20
ろくせい@やまもとかねよし
1204
多様な個人を満たす社会はあるのか。生物本能とヒト特有意識で生じる矛盾を鋭く描く。生物は個体が生き延びるため、食べて、休む。そして集団維持で子孫を産む。私たちは自己意識を抱え、社会の中で自分の生存と子孫繁栄を満足させようと志向。人間社会の秩序は多数が満足するルールで制御。そこでは子孫繁栄の引き金は異性に限定され、性行為で完了。異性ではない性的衝動も少数派として多数に組み込まれる。生きることに大切な自己意識。時にこれがルールから逸脱した性的衝動に。これは少数派にも含まれない。社会が許容するは限定的な多様性か。2022/03/26
starbro
1183
朝井 リョウは、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 著者の作家生活十周年記念作品[黒版]として期待して読みました。正しい欲望なんて存在しない気もしますが、多様性の名の下に正当化されるのでしょうか? 私は極めてノーマルですが、巷にはアブノーマル、変態が溢れているのでしょうか? https://www.shinchosha.co.jp/seiyoku/2021/05/06
パトラッシュ
1175
LGBTQなど性的多様性を認めることが正しいとされるようになったが、皆が同じで当然という日本では性的少数派が自らを公表するのは難しい。まして今も犯罪扱いを免れない児童ポルノでしか性的満足を得られない人には、現代は昔からの仲間が次々と消えつつある状況ではないか。そんな追いつめられた性的少数派が必死に自らの性癖を隠そうとあがき、ネットを通じて繋がりを求める姿を生々しく描いていく。ただ自分は同調圧力や忖度など気にせず他人と深い関係も求めない性格なので、これほど周囲を気にして怯えて生きる感覚が理解できないのだが。2021/04/19
bunmei
1159
現代社会が抱える『多様性をどう捉えていくのか』という課題に目を向け、その中で彼なりの主義主張を構築し、アピール性の高い作品となっている。『多様化』が叫ばれる中、いざマイノリティーと遭遇すれば、そこには見えない壁が存在し、そうした人々を排除する傾向は否めない。また、私たち自身も、結局はマジョリティーの安心や安定を望むばかりに、本音に蓋をして、周りに合わせていることにも納得している。本作では、主人公が関わる多様性について、思案し、悩み、葛藤する心の襞を通して、読者がどう考えるのかという判断も委ねてくる。 2021/04/27