内容説明
時は明治・大正の御世。孤独な建築家・笠井泉二は、依頼者が望んだ以上の建物を造る不思議な力を持っていた。老子爵夫人には亡き夫と過ごせる部屋を、へんくつな探偵作家には永遠に住める家を。そこに一歩足を踏み入れた者はみな、建物がまとう異様な空気に戸惑いながら酔いしれていく…。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
著者等紹介
中村弦[ナカムラゲン]
1962(昭和37)年東京都大田区生まれ。國學院大學文学部卒業。『天使の歩廊』で第20回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞、デビュー作となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
61
相手の想いを汲み取り、相手が望む建築を造り上げる建築家、笠井泉二と彼の造った建築の少し、不思議でとても優しい物語。此岸と彼岸を結ぶ広く、不思議な空間、天使のモチーフ、柔らかな光のイメージに心が洗われました。彼が為すべきことを為すためには大切なものを失わなければならなかった事実は人間を超越した存在への一歩かと思うと何とも言えない感情が押し寄せます。最後に彼はこれから世界の激動に巻き込まれる満州に渡ったがその地で彼が人々の良い意味で心を惑わす建築を造れることを心から願わずにはいられません。2011/12/05
七色一味
59
読破。天使に愛され、天使に魅入られてしまった天才建築家の物語。伝奇小説とか、時代物ファンタジーといったカテゴリに属するかと思いますが──。私的にはちょっと物足りない気分が…。史実に基づいた時代背景はいいのですが、明治・大正時代にメートル法はそれほど普及してないだろうという気が…。(本格的な普及は、1951年の計量法施行後)まぁ、それは置いておくとして…。 物語に出てくる主要登場人物をネットで軽く検索して見ましたが、史実に登場する人物はいませんでしたし、出身大学も架空のもので…(続く)2012/01/28
Norico
52
明治、大正時代に建てられた洋館って、今見ても本当素敵。ちょうどその時代の天才建築家、笠井泉ニと、かれの建てた家の物語。不思議で謎めいてて、別世界にいける建物たち。出てくるどの建物も魅力的なんだけど、どんな建物なのか、想像しきれない。自分の想像力が貧困すぎて悔しい。最後にちらっと語られる、満州に彼が作ったかもしれない都市はどんなところで、どんな人たちが住むんだろう。2015/08/03
nyanco
45
文章がとても美しい。建築という具体的なものと、ファンタジーというとても抽象的なものの融合。敢えて誰も踏み入れたことのないこの分野を開拓されたのは素晴らしいと思います。かなり無理な部分もありますが、他の作品も読んでみたいです。2009/05/31
あつひめ
43
日本ファンタジーノベル大賞受賞作。造家師…建築士とも違う建築の技術だけじゃなく人の心も癒すことができる空間を生み出せる人のことを言うのだろうか。とっても不思議な雰囲気を含んでいる呼び名でもあると思う。造家師笠井泉二、子供のころから不思議な心の目を持っていたのかもしれない。明治・大正の古き良き時代の出来事は現代とは違う異国の技法を取り入れたりまた日本独自のものを活かしたり。そんな魅力ある世界をより一層膨らませているのが笠井の魅力なのかもしれない。挿絵があるともっと身近に感じられたかも。冬の陽が印象的。 2011/08/14