内容説明
1939年夏の魔法の一日、ウィン・ベリーは海辺のホテルでメアリー・ベイツと出会い、芸人のフロイトから一頭の熊を買う。こうして、ベリー家の歴史が始まった。ホモのフランク、小人症のリリー、難聴のエッグ、たがいに愛し合うフラニーとジョン、老犬のソロー。それぞれに傷を負った家族は、父親の夢をかなえるため、ホテル・ニューハンプシャーを開業する―現代アメリカ文学の金字塔。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハッシー
240
【悲しみは漂う。姿を隠し、形を変えて。】優しくなめらかな語り口。jazzを奏でているようなリズミカルな文章。奇特で様々な悲劇に見舞われる一家の〈平凡な〉日常を淡々と描いている。下巻に続く。2016/11/14
ケイ
139
こんな話だとは知らなかった。だいたい、ホテルの話は、まだそんなに出てこないし。破壊力があって、爆発するようなパワーはどこからきているのだろう。インディアン号のサイドカーに乗るクマ。その突然の喪失と、フラニーがケンカに負けたことが、とてもツラかった。悲しくて驚いて…。なぜフラニーをそんな目に合わせるのかしら。その傷が深過ぎて、その後のストーリーは、全て彼女の視点から考えてしまった、2016/09/12
のっち♬
88
ホテル経営の夢に取り憑かれた父親を大黒柱とする家族の物語が次男の視点で語られる。前置きが長めで序盤は退屈だが、子供達の成長記録になると次第に起伏が出てくる。ゲイであるためにいじめに遭う長男、フットボールチームの青年たちに暴行される長女、姉を慕いながらその現場を目撃する次男(後に近親相姦に発展)など、彼らの心に深い傷を負わせる性的な体験が物語の大きな転換点になっている。更には次女の小人症に、三男の難聴。不幸続きの家族だが、淡々とした筆致は愛情や逞しさもしっかり描き出す。ユーモアとペーソスのバランスが絶妙。2019/09/21
Willie the Wildcat
82
古き良き時代のアメリカの匂いを残す両親と、”個性”豊かな5人の子供たち。父の3つの運命的な出会い。妻、フロイト、そして“アール”?!インターホンの盗み聞きを通した兄姉弟の成長などは許容範囲も、少々上品さに欠ける描写が散見。頭に残る3つの謎。まず、祖父の口癖の時間軸の差異、「現在vs.未来」の意味。次に、フラニーを”袋叩き”にした3人組の末路の意味、そして最後に、フロイトとの『3つの誓い』の3つ目の誓いの意味。それにしても、愛犬ソローの”大活躍”には苦笑い。スペルは間違いなくSorrowだな。2019/10/09
NAO
61
近親相姦、レイプ、性倒錯、暴力、自殺といった問題のあることがこれでもかというぐらい溢れ、その過激さと猥雑さはときに目を背けたくなる場面もある。だが、じっくり読んでいくと、それらは作品の中で緻密に計算されコントロールされた猥雑さだということが分かる。さすが、ヴォネガットに作家法を学んだだけのことはある。『熊を放つ』でもそうだったが、アーヴィングは弱者の立場に立って、弱者が常に悲惨な境遇に置かれていることに対して烈しく憤っており、この作品でもまた、象徴的に「熊」が使われている。2016/05/01