内容説明
平凡な中年の株屋ストリックランドは、妻子を捨ててパリへ出、芸術的創造欲のために友人の愛妻を奪ったあげく、女を自殺させ、タヒチに逃れる。ここで彼は土地の女と同棲し、宿病と戦いながら人間の魂を根底からゆすぶる壮麗な大壁画を完成したのち、火を放つ。ゴーギャンの伝記に暗示を得て、芸術にとりつかれた天才の苦悩を描き、人間の通俗性の奥にある不可解性を追究した力作。
著者等紹介
モーム［モーム］［Ｍａｕｇｈａｍ，Ｗｉｌｌｉａｍ Ｓｏｍｅｒｓｅｔ］
１８７４‐１９６５。イギリスの小説家・劇作家。フランスのパリに生れるが、幼くして両親を亡くし、南イングランドの叔父のもとで育つ。ドイツのハイデルベルク大学、ロンドンの聖トマス病院付属医学校で学ぶ。医療助手の経験を描いた小説『ランベスのライザ』（１８９７）が注目され、作家生活に入る
中野好夫［ナカノヨシオ］
１９０３‐１９８５。愛媛県松山市生れ。英文学者・評論家。東大英文科卒。シェイクスピア、モーム、スウィフト等の名訳の他、評伝『アラビアのロレンス』『蘆花徳冨健次郎』がある（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
301
高校生の時以来の再読。以前に読んだ時との最も大きな違いは「語り」の問題だ。かつては、もっとゴーギャン伝として読んでいたように思う。ところが今回はより冷静に読めたせいか、小説の技法に眼を開かれた。主人公のストリックランドは、もちろんゴーギャンであって、ゴーギャンではない。あくまでもモームが造型した小説の主人公である。ストリックランドは、時にはゴッホの狂気をも体現する、常人からは逸脱した天才芸術家として描かれる。本書は、いわば本質において大いなる常識的な作家でもあったモームが描いた真の天才画家の物語なのだ。2015/02/17
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
110
初めてこの本に出会ったのは大学生の時。衝撃を受け何度も線を引いて読み返した。 ゴーギャンの伝記に暗示を得て書かれたこの作品は、ストリックランドという絵を描く啓示に打たれた中年男性が妻子も仕事も捨て、イギリス、パリと放浪、タヒチにて一生を終えるその生涯を「私」の視点から切り取ったもの。 極悪非道なストリックランドや不遇の時代の暗さもモームの視点で描くと何とも痛烈な皮肉で彩られ小気味いい。 そしてタヒチの楽園としての描かれ方が素晴らしい！ヨーロッパのヨーロッパ然とした表情やタヒチの南国としての鮮やかな色合い。2018/04/30
ナマアタタカイカタタタキキ
96
心というやつは、理性の知らない、特別な理屈を持っている──滾る生命がやがて土に還るのを見たような、心静かな読後感だった。六ペンス（世俗的な幸福）には目もくれず、月（創作への情熱）に憑かれたまま生を全うした男の話。恐らく全ての人間が自らの胸に秘めている、心の中の理想郷を漠然と思った。それを具現化するのに、ある者は絵を描き、またある者は言葉を尽くし、中には創作ではなく現在の生活の中に見出そうとする者もいる。様々な人間の生き様がそこにある。月並みな言葉だけれど、“何の為になら死ねるか”を問われたような気がした。2020/12/03
Atsushi Saito
79
〈新潮文庫の100冊 2016〉読了13作品目。 4年前に購入して少し読んでそのまんま放置。モームがゴーギャンに影響を受けて書いたそうな。家族を捨てて内なる衝動に生きた「ストリックランド」と、その一生を書き綴った「僕」どちらも凄い。前半の気怠さと後半の疾走感はストリックランドの生き様とリンクしててどんどん惹きこまれます。六ペンスを握りしめて生きる僕らにも月はあるはずってな感じ。2016/07/18
康功
48
ゴーギャンの伝記、モーム自身の謎、そして、主人公ストリックランドという天才芸術家のストイックな仕事に対する態度と人間味あふれる私生活の未熟さ。なんとも、関心の尽きない話題性たっぷりの小説。ストリックランドに翻弄される主人公に、始めは同情していたが、、、こういう人って、いるよなぁと、妙に納得している自分がいました。2015/06/24
