内容説明
ピエロ。浚介は、生徒たちからそう呼ばれていたのだという。ふたつの事件を経て、虚無に閉ざされていた彼の心に変化が訪れていた。ピエロ。馬見原は今そう見えるだろう。冬島母子を全身全霊で守っているにもかかわらず、妻や娘との関係は歪んだままだから。また一つ家族が失われ、哀しみの残響が世界を満たす。愛という言葉の持つさまざまな貌と、かすかに見える希望を描く、第三部。
著者等紹介
天童荒太[テンドウアラタ]
1960(昭和35)年、愛媛県生れ。’86年、「白の家族」で野性時代新人文学賞を受賞。映画の原作、脚本を手がけたのち、’93年(平成5)年、『孤独の歌声』が日本推理サスペンス大賞優秀作となる。’96年、『家族狩り』で山本周五郎賞を受賞。2000年、『永遠の仔』で日本推理作家協会賞を受賞している
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
252
第3部も、馬見原、游子、浚介の 三人の人生を軸に、現代の崩壊 していく家族を描く。 すぐ横で、事件が起こりつつあるのに 気付かずに何もできない…そんな 現代の問題をさりげなく盛り込みながら、 新たな展開を示唆している、そんな 巻だった。 2014/09/07
抹茶モナカ
106
少し第2部で崩れかけていた物語の土台も、作中の白蟻退治みたいに調整され、立て直されていくような印象だった。事件らしい事件も起こらなかったし、緩徐楽章みたいな分冊だった。中高年や、老年期の話も盛り込まれていて、あまり、執筆当時の社会問題をしつこく書き込んでいなかったのも、良かったのかな。2014/06/28
かみぶくろ
96
第三部。作中、元不良少年は言う。日常のみじめさの蓄積が、自分たちを暴力に駆り立てていたのだと。不良に限らない話だ。私たちの生活は、常にみじめさと裏合わせである。普通の生活者のそうしたみじめさが、この社会には溜まりに溜まっている。今日も電車で誰かの舌打ちが聞こえる。世界では、復讐が復讐を呼び、争いが収まる気配は髪の毛ほどもない。こんな厳しいテーマがより幾重にも織り込まれていくが、人が人を救う連鎖も僅かながら描かれ、微かな希望のようなものも兆す。2020/04/25
修一郎
94
「家族」という主題を追っているのですが、語りの範疇が広いです。家族という中の世界を外側の世界の悲惨な問題を結びつけようとするのは、作者の主張ではなく問題提起と理解しました。モノローグと会話が長く、舞台劇のよう。言いたいことたくさんは理解できますが自分は受け止めきれてません。変化と言えば、第1部では無責任野郎だった浚介が変わり始めました。一方ミステリーとして見ると、伏線をペタペタ貼っている感、こっちはまぁわかりやすいかな。共感できない結末になるかもしれないなぁという予感がひしひしとします。第4部へ。2014/08/14
Tsuyoshi
80
美術教師、刑事、女子高生。それぞれが思い通りにいかない現実や他者への失望や、素直になれない自分への自己嫌悪に苛まされつつ公私ともに追い込まれていく展開。三者三様の心の闇も印象的だが、電話相談のおばさんがセミナーでの活躍も印象的。「愛とは無償の自己犠牲」論破していく内容はアドラー哲学を彷彿とさせるものだった。おばさんがどう関わっていくのかも気になる。2018/03/14