新潮文庫<br> 漂流物

新潮文庫
漂流物

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  • サイズ 文庫判/ページ数 235p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784101385129
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

内容説明

これだけは書いてはならぬ、と血族から哀願されていたことを小説に書いた。小説の材料にした人々には犠牲の血を流させた。しかるに「私」はそれによって世の讃辞を二度まで浴びた。世間をはずれて漂い流れる、落伍者たるこの「私」が…。書くことのむごさを痛感しつつも、なお克明に、容赦なく、書かずにはいられぬことの業、そして救い。「私」の中の悪の手が紡いだ私小説、全七篇。平林たい子賞文学賞。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

i-miya

43
2010.09.13 (解説・井口時男) ◎「残酷にして甘やかなもの」 昭和の末に「あぶく景気」と呼ばれた時代があった。(「ぬけがら」)あぶく、という薄汚さは認めたくない。こぎれいな言葉のうそうそしさを認めない。「しおの匙」、私小説。「私」が「私」というものの存在や本質を問う。2010.09.14 「粋やの」と青川さん。下降生活者。残酷にして甘やかな民衆言語。(H06.03-H08.09) ◎『蟲の息』。地面に青草。旧都庁舎跡地。ある土曜日の午後。葬儀の帰り。世話した女人の葬儀。2010/09/15

ω

41
あー良かったω コアなファン向け。「抜髪」サイコー。 母「可哀想に。惨めなもんや。あんたたった三回だけやないか、雑誌に載せてもうたん。あとは全部、没、お陀仏、極楽往生。チーン。そのなれの果てが無一物や」  母「あんたは浅はかやな。阿呆やな。口が卑しいな。口が軽いな。ふな。ふな。ふな」2021/07/13

メタボン

34
☆☆☆☆ 表題作がすさまじい。料理場の煮方である青山さんの長い身の上話(自白とも言える)。底辺にいながら「粋やの」と繰り返すその口調が印象的。母の呪詛が延々と続く「抜髪」もまたすさまじい。言葉の怖さが身につまされるようだ。この手の語り物は本当に上手いなあと唸らされる。断片を集めた「愚か者」。「物騒」は禍々しい。借りた本をなくす「めっきり」。2021/09/24

James Hayashi

34
芥川賞候補作であり平林たい子文学賞受賞の表題作と6つの短編。圧倒感のある関西弁での語り。自分や同僚の料理人を漂流物と表現するが、粋であり無常な人生とも感じさせる。また「抜髪」でも母親の1人語りが中編としてびっしり埋まる。赤裸な著者の文章はこちらの心の扉も吹き飛ばしてしまうほどインパクトがある。2017/06/19

長谷川透

20
噂に聞きし「抜髪」には度肝抜かされた。母親と思われる人物が息子(恐らくは車谷長吉)に向って吐く罵倒の乱れ打ち、怨念の呪文が延々と五十頁あまり続く。言葉を取り扱うことは罪深いことやで、と息子に説教を垂らしながらも、自らが吐く邪念の言葉には躊躇がない。ただただ鎮座しながら耐え偲ぶ書き手の姿が浮かんでくるが、滑稽と思える余裕が全くない、嗚呼えげつない。表題作「漂流物」は「抜髪」のような奇抜さはないが、見事な私小説である。奇作を読んで呆然とした後でも印象に残る巧さがある。また僕の郷里が描かれており興味深く読んだ。2013/12/02

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