感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
65
本屋で『父の時代の青春』という言葉に惹かれ、そのまま購入した。ひどく夢中になった。「柔らかい冬の陽射しがもれる枯草の丘」というデート場所の設定はひどく秘密の感じがした。中学三年の「なつめ」への思慕はとても清冽である。 2010/05/11
KEI
48
読友さんのお薦め本。戦後間もない時期の男子高校生・明史を描いた青春小説。1年年上の幼馴染みに引きずられていた恋、そして通学路で出逢った2年年下の棗への募る想い、頭の中は来る日も来る日も棗を想っている姿に、実らぬ恋の切なさが伝わってくる。三鷹事件など、戦後の混乱期が背景にあっても、自分の恋以外には目を向ける事が出来ない主人公の一途な、拙い恋は今の若い人に共感されるのか?むしろ、こんな恋をする事が青春なのだと著者が言っている様にすら感じた。2018/10/24
じいじ
48
何とも言えぬ余韻の残る読後感である。黒井千次の美しい文体で綴られた甘美で、ちょっと官能的な恋愛小説である。ただし、本作の主人公は高校生の明史。この明史と1学年上の慶子、そして中学3年生のナツメとの恋の物語である。著者は、この幼い恋の駆け引きを見事な筆力で清潔に仕上げている。若すぎる主人公たちの心情、性への関心を丁寧に描かれた傑作青春小説である。宮本輝は解説で「信念に抱かれて、てらいのない甘美な恋愛小説である。時代がどのように変化しても・・」と絶賛。いやが上にも自身の高校生時代の想い出がよみがえってくる。2015/02/23
クリママ
45
小学6年生の時疎開した経験を持つ男子高校生の恋。手紙でしか気持ちを伝える手段がなかったり、偶然を装って逢うためにウロウロしていたり、そして、古き武蔵野の描写も、切なくも懐かしい思いがする。学校では級友たちと文学や政治の話をするも、初々しい恋心を見れば、今の子たちとの乖離を感じざるを得ない。あっけない幕引きを理不尽に思いながら、それがその時代、その年代の恋なのかもしれないと思った。2018/11/11
メタボン
40
☆☆☆☆☆ 物語としては何てことのない展開の恋愛小説なれど、成人未満の年代に味わう切ない気分が満ち溢れていて、自分自身の青春を振り返る甘美な時間に身を委ねる甘苦しい読書体験となった。そしてその嫉妬心が非常に良くわかるように、明史の心情を東京郊外の風景を交えて綴る文体が何よりも素晴らしかった。丘の上での棗との抱擁はドキドキした。今は映像が簡単に見れる時代だが、読書で脳内再現されるイメージほどには官能的ではないのではないか。2015/08/11
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- 和書
- ハプスブルクとハンガリー