内容説明
英雄譚の調べに導かれるかのごとく起こった蝦夷の勝算なき戦い。だがその炎は目梨地方全体を覆うまでには至らなかった。圧倒的装備の松前藩鎮撫軍が迫る。選ぶのは民族の誇りか、生存の道か…。一つの「国家」に生まれ変わろうとする日本。松平定信の描いたこの国の未来図とは何だったのか。時代の波間に呑み込まれ、消えてゆく人々―。熱い、熱い歴史巨編2800枚、堂々の完結。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わっぱっぱ
42
嗚呼この史劇を吉村昭の筆致で読めたらどんなに心震えただろうか。彼の構想とするにはやや荒唐無稽なのだが。などと無礼な感想もちらと抱いたが、魂から迸るエネルギーの濃さに圧倒されて読了。個々の思いが大きなうねりとなって荒れ狂ったのち、また個々の思いへと帰結して、やりきれなさだけが残る。国って何だ。民族って何だ。善悪って何だ。そんなのぜんぶ虚構じゃないか。でも私らが虚構によって繋がっていることも確かで、諍うのは愛を信じているからで、絶望するのは希望があるからで、なんて慰めにならないよ今は。2018/01/29
HoneyBear
16
凄い。蝦夷と和人との関係、フランス革命前のロシアの状況(エカテリーナ2世の治世)、松前藩、幕府の駆け引き、国後島などの蝦夷(アイヌ)の思い、ラクスマンの来航、などを背景に「国後・目梨の乱」前後を軸に重層的に重々しい物語が紡ぎ上げられる。救いのない、決して爽やかでない物語なのに読み始めると中断することが難しいほど引き込まれた。
いくら
15
国後のアイヌの蜂起に対して新井田孫三郎率いる松前藩の鎮撫軍が出陣。一枚岩でないアイヌをしたたかに切り崩していく。ついに国後の脇長人ツキノエも降伏条件を呑む。霧の譜最後の39人のアイヌが処刑される場面は慟哭を禁じ得ません。それから3年半。ツキノエのもとにポーランド貴族のマホウスキが海を越えてやってきます。ただただ詫びるためだけに。この場面がいい。最後に本当にこの作品、読めてよかった。もっと知らないとならない歴史があると再認識させられたし。船戸与一さんの偉業に感謝。2013/04/08
さっと
14
国後で起こった蝦夷の蜂起は、多数の和人の殺害に留まり、目梨地方全体まで覆うことはなかった。同胞の被害を最小限にしようと奔走したツキノエ、蜂起に応えることのなかった厚岸の蝦夷、藩の存続のみを目的に血の粛清を行う松前藩鎮撫軍。蜂起から三年後、彼らを襲う、かつてはアイヌの再生を期待されたツキノエの孫・ハルナフリの「冥い旅」。なんで最後にこんな感じやねん!と虚しさに打ちひしがれること間違いなし。結局のところ、巨大な権力と時代の流れには抗えない―一民族でさえ生き方を変えられてしまう、個人の無力さを思い知ったから。2014/05/04
GaGa
12
シャクシャインの戦いから百年以上をすぎた時代を描いた良質なフィクション。正直よくぞここまで書き切ったと感心した。船戸与一作品では私の中では最高峰!2010/05/13