内容説明
あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいに―バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い。無防備に出遭ってしまい、心に織りこまれてしまった事ども。おかげで困惑と痛みと自分の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
561
あの夏の日の記憶を喚起する11の短編物語。通常、こうした短篇集においては、真ん中あたりに表題作が置かれそうなものだが、本書ではそれが冒頭に。もう、いきなり心が物語世界に拉致されてしまうような衝撃に始まる。これこそが物語というものだ。表題作以外には、しいて言えば「海辺の町」、そして「弟」だが、他の短篇も、いずれもが捨てがたい絶妙の味わい。そして、自分自身が忘れていた子どもの頃のノスタルジックな思い出がよみがえる。アイスクリームの木のへら、おしろい花の糸。それはまるで私自身の「あの夏の記憶」そのものだ。2018/06/16
ミカママ
481
響く作品とそうでない作品が混在。江國さんは情景や心情描写が好きでつい手に取ってしまうのだが、わたしにはやはり主人公たちが絶対的に合わない。何が好きだの嫌いだの、子どものくせに繊細さを前面に押し出してくるタイプ。そして『焼却炉』は間違いなく既読なのだが(どこで読んだのだか)調べてもわからない、納得いかない(苦笑)。2022/04/04
zero1
246
鮮やかな言葉はいつ読んでも新鮮。11人の少女たちによる夏の物語。文字から色や匂い、音まで表現できるのは流石。私にはセミの声さえ聞こえた。いじめや大人への視線などが見事に描かれている。文学の可能性を広めた一冊と言っていい。「弟」の葬式ごっこ、「薔薇のアーチ」の嘘、「はるかちゃん」の変態男にはビックリ!巻末で川上弘美が「江國さんの秘密」を書いている。江國の世界は簡単に表現できない。言葉の選択眼を川上は高く評価。緊密でせつないと江國の作品を解説している。この二人、波長が合いそうだ。薄いが内容は充実。2019/01/26
エドワード
209
私が小学生の頃、エアコンは無かった。大学生の下宿にも無かった。扇風機と庭を渡る風が涼しさだった。この作品はその頃の懐かしい夏の匂い、そう「すいかの匂い」がする。海水浴。新幹線。海辺の街。祖父母の家。蝉。蝶。蛾。蟻。麦わら帽子。ビニールプール。みんな<匂い>を覚えている。夏休みが楽しみだった。子供時代にのみ与えられる長い休み。夏休みは特別な経験だった。太陽を浴びて、真っ黒になった夏。夏にだけ会った人々。秋には会えない友達。大人になった今、ただ暑苦しいだけの季節になってしまった。想い出の中の夏休みよ、永遠に。2012/08/10
おしゃべりメガネ
191
気がつけば地味にそれなりの作品数を読んでる江國さんです。改めて読むと、やっぱりこの方の綴る文章は本当にキレイだなぁと思います。タイトルに「すいか」とあるように夏を感じさせてくれるバラエティ豊かな短編集です。11人の少女、それぞれの目線から語られる様々な物語はどの話も江國さんならではの雰囲気で、情景は芸術的で、セクシーでもあり、ミステリアスでもあり、中にはホラーともいえる作品もあります。イヤミスではありませんが、彼女が書くと芸術感が勝り、イヤな雰囲気でさえもキレイに感じてしまいます。夏にオススメな一冊です。2019/06/23