内容説明
父が急死した夏、母は幼い私を連れて知らない町をあてもなく歩いた。やがて大きなポプラの木のあるアパートを見つけ、引っ越すことにした。こわそうな大家のおばあさんと少しずつ親しくなると、おばあさんは私に不思議な秘密を話してくれた―。大人になった私の胸に、約束を守ってくれたおばあさんや隣人たちとの歳月が鮮やかに蘇る。『夏の庭』の著者による、あたたかな再生の物語。
著者等紹介
湯本香樹実[ユモトカズミ]
1959(昭和34)年、東京生まれ。東京音楽大学音楽科作曲専攻卒業。小説『夏の庭―The Friends―』は’93(平成5)年日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞。同書は映画・舞台化されるとともに世界十ヵ国以上で翻訳され、’97年にボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ミルドレッド・バチェルダー賞に輝いた。2009年絵本『くまとやまねこ』で講談社出版文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
600
もう一つの魔女の物語。その魅力は、けっして「西の魔女」にひけを取らない。なんといっても、こちらのおばあちゃんの風貌はポパイに似ているんだから。あの世への手紙の配達人という発想も意表を突くが、説得力はこの上ない。おばあちゃんの存在が強固なリアリティを持っている。また文体は一貫して抒情に溢れ、一本の大きなポプラが軸となってそれを支える。電話のシーンでも、お母さんの手紙のシーンでも、不覚にも思わず涙がハラリ。「私」の成長物語なのだが、私たち読者にとっては、失っていたものを思い出す、胸が痛くも甘美な物語である。2016/06/29
SJW
290
夫を失った母と6歳の少女が庭にポプラのあるアパートに引っ越したが、不気味な大家のおばあさんと徐々に関わりを持ち、少女は不思議な話に巻き込まれていく。湯本さんの「夏の庭」のように子供と老人のふれあいを描いた物語で、自分には似たような経験がなかったが、子供の頃のノスタルジーに浸れた。かなり心配性な少女に設定したなと思ったが、湯本さんは曾祖母のせいで実際に臆病な子供になってしまったらしい。自分にもこれくらいの注意深さがあれば、また違った人生だったかな。2018/04/02
HIRO1970
260
⭐️⭐️⭐️前に著者の夏の庭を子供の本棚から拝借して素晴らしい感性溢れる作品にすっかり参りました。湯本さんはまだ二冊目ですが、本作も負けず劣らずな柔らかい陽だまりのような暖かいけどチョットせつない感じの良い作品でした。まだ二冊目で判断するのは早いとは思いますが、柔らかい優しさを感じる表現は異なりますが、私の中では女性版の重松清さん的な位置づけになっている気がします。昔世話になったあの人の近況がチョット気になるような、忘れていた記憶を呼び覚ましてくれる作品でした。皆さんにオススメします。2015/10/14
yoshida
259
主人公の千秋の魂の再生を描き、読者に明日への勇気を与えてくれる名作。交通事故で父を喪った7才の千秋は、母と二人で大きなポプラの木のあるポプラ荘に引っ越す。父の死を受け入れられない千秋は、とある事件もあり学校に行けなくなる。自宅療養を始める千秋。昼間は母は働いており、ポプラ荘の大家のお婆さんと過ごす。お婆さんは死んだら亡き人に手紙を届ける事ができるという。千秋は亡き父への手紙を書き始める。母も亡き夫への手紙を書く。お婆さんの葬儀で沢山の人々が手紙を託したことがわかる。母の手紙を読み真実に気付く千秋。感動作。2015/11/21
おしゃべりメガネ
223
時期的にぴったりなタイトルな作品と思い、手に取りました。七歳の時に父親を失った主人公「千秋」母親と『ポプラ荘』に住み始め、大家のおばあさんと不思議な交流が始まります。同じポプラ荘の住人との交流ものんびりと描かれ、ココロがほっと温まる作品でした。時は流れ、18年後、大家さんの葬式に向かう「千秋」は少し人生に疲れ気味になっていましたが、再会する人々、そして何より過去の母親から'あるモノ'で励まされ、涙します。いつの時代も、そしてどんな時も母親の偉大さはいつまでも変わらないんですね。秋にぴったりな作品でした。2017/10/29