内容説明
ベルリンのガイドで生計を立てる、美貌の男、カール。地方銀行に勤める平凡な会社員、昌明。金のため男に抱かれることに疲れ始めた、カズミ。退屈な生活。上下運動を繰り返す、エレベーターのような日々。しかし、それがある時、一瞬にして終焉を迎える。彼らの目の前に現れた、まったく新しい光景。禁断の愉悦に続く道か、破滅の甘美へと流れゆく河か。累卵の如き世界に捧げる、短編集。
著者等紹介
桐野夏生[キリノナツオ]
1951(昭和26)年、金沢市生れ。成蹊大学卒。’93(平成5)年、『顔に降りかかる雨』で、江戸川乱歩賞を受賞する。’97年に発表した『OUT』が社会現象を巻きおこし、日本推理作家協会賞を受賞。’99年に、『柔らかな頬』で直木賞を受賞する。エンターテインメント小説の枠をゆるがす問題作を、次々と発表している
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
322
9つの掌・短篇小説を収録。いずれも幾分かブラックなスパイスの香りのする小説群だ。もっとも、彼女の長編に比べるとその毒は薄いようだ。「あとがき」で、桐野は自身の短篇を「一個の石をめくってみて、その下にあった世界を見る驚き」と自己分析して見せる。なかなかに巧みな比喩であり、彼女の短篇の構造をよく表してもいる。そして、毒を含んだ物語が一陣の風のように駆け抜けて行き、後に残された我々読者はしばし呆然とする。それはまさに作者の意図するところであっただろう。そして、まんまと罠に落ちる楽しみがそこにある。2017/07/30
優希
91
面白かったです。ブラックな短編集。禁断の果実のように破滅の甘美な雰囲気が漂っていました。どの物語も濃いので、すっかり酔わされてしまいます。じわりとした時間が流れていますが、それすら心地よく感じさせられますね。ただ、長編に比べると若干毒は少なめだと思います。2018/01/08
miyumiyu
88
石ころを剥がして見えてしまった異世界。桐野さんがあとがきで分析している、まさにその通りの短編集。「デッドガール」の怖さと衝撃から始まり、「ジオラマ」はもう秀逸。覗いている側と覗かれている側のスリル。そして「六月の花嫁」「黒い犬」は、見てはいけないものを見てしまった共犯者として引きずり込まれた感じ。最後の「夜の砂」は、たった4ページ足らずだが、死を描く桐野さん独特の世界観に引き込まれた。また桐野ワールドにどっぷりハマってしまった。2018/09/27
アッシュ姉
78
ごく普通に見える人の裏の顔、平凡で単調な暮らしに起きる変化。がらっと崩れたり、少しずつずれていく様子を桐野さんらしい筆致で切り取った短編集。読友さんのオススメどおり、好みで面白かった。足元がぐらつくような危うい感じがたまらない。『グロテスク』へと続いていく「デッドガール」、新婚の旦那の意外な憂鬱「六月の花嫁」、同級生からの突然の電話「蜘蛛の糸」、憧れの人の突然死「井戸川さんについて」、納得の表題作「ジオラマ」、こんな最期を迎えたい「夜の砂」。ご本人によるあとがきも必見。2018/10/10
s-kozy
51
人間の暗さ、一枚皮をめくったところに現れる怖さ、そして人間の弱さを表現した短編集。最後の一編で人生を昇華させ、どの短編にも桐野印は押されているので、楽しめることは間違いないが、個人的には『錆びる心」の方が好きかなぁ。いや、さすが桐野夏生という感じは現れていましたよ。2014/01/23