出版社内容情報
堀江 敏幸[ホリエ トシユキ]
著・文・その他
内容説明
山肌に沿い立ち並ぶ鉄塔の列、かつて移動スーパーだった裏庭のボンネットバス、ゆるやかに見え実は急な未見坂の長い道路…。時の流れのなか、小さな便利と老いの寂しさをともに受けいれながら、尾名川流域で同じ風景を眺めて暮らす住民たちのそれぞれの日常。そこに、肉親との不意の離別に揺れる少年や女性の心情を重ねて映し出す、名作『雪沼とその周辺』に連なる短編小説集。
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964(昭和39)年、岐阜県生れ。’99(平成11)年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、’03年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、’04年同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、’06年『河岸忘日抄』、’10年『正弦曲線』で読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
411
尾名川(足利市に実在)流域を舞台に、そこに暮す人々の日常が描かれる連作短編集。しかも、ここで語られるのは、死や結婚といった「日常の中の非日常」でさえなく、ほんとうにささやかな暮しであり日常である。そして、そこには行ったこともないのに、何故か懐かしいような感興を覚えるのだ。それは、あるいはもう忘れてしまっていた少年の日のささやかな記憶が喚起されるからだろうか。冒頭の「滑走路へ」の末尾「幾重にも重ねた音の環のなかに、光を放つちいさな点」は、まさにそうした記憶のシンボルそのものであるかのように思えるのである。2014/06/28
rico
97
大きな事件が起きるわけではない。山間の地方都市に暮らす人々の日常を静かな筆致で描く短編集。漂う寂寥感。登場人物の多くがそれぞれの喪失を抱えているからか。それとも、この街がそう遠くない将来、山の頂きの残照のようにひっそり消えていくという予感のせいか。高校まで過ごした山の中の街の記憶が甦る。こんな大人や子どもがいて、あんなお店が確かにあった。懐かしさは戻らぬものへの哀惜と同義かもしれない。しかし、最初と最後が子ども視点の物語であることで明日が見える。人は生きる。暮らしは続く。まばゆい光が当たることはなくても。2022/02/14
KAZOO
86
ほんとうは「雪沼とその周辺」を読んでからのほうがいいのでしょうが、たまたま手元にあったほうの本がこれだったので先に読みました。連作短篇集ということで9つの短篇が収められています。ある街での出来事がそこに登場する人物たちによって奏でられてえも言われないアンサンブルを醸し出してくれています。堀江さんは本当に普通の人々や職人たちをうまく書かれていると感じます。2015/05/03
コットン
74
『雪沼とその周辺』にほんのりと続いている9編の短編集。昔は街の移動販売車として重宝していた払い下げの旧型バスが人助けのためクラクションを鳴らしっぱなしにして猛烈な勢いで走った『戸の池一丁目』、大の大人が子供の仲介を本気にしてパートの募集にやってくる『消毒液』など、どこかにあるかもしれない題材がどこにもない心に沁み込む物語になっている。2015/12/27
サンタマリア
57
『雪沼とその周辺』の続編的短編集。完全な続編ではなかったが面白かった。語り手に家庭に問題を抱えた子供が多く、それがこの短編集を包むやるせなさに繋がっている。前作の静謐さが健在なのも良いが、何かが違ってるな。読み返すか。『滑走路へ』『戸の池一丁目』が好き。2021/12/26