内容説明
夢み、涙し、耐え、祈る。梨園の御曹司、雪雄に仕える光乃の、献身と忍従の日々。雪雄の愛人の出産や、料亭の娘との結婚・離婚にも深くかかわる光乃。一門宗家へ養子に行く雪雄につき従い、戦中の、文字通り九死に一生の苦難をも共に乗り越えた光乃。続く戦後の混乱期、雪雄の子を宿していると気づいた光乃の、重い困惑と不安…。健気に、そして烈しく生きた、或る女の昭和史。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
373
上下巻ともに充実した内容だった。読了したという感慨もひとしお。光乃の人生を共に生きたような気がする。長いような短いような人生だった、とここでも感慨にふけることに。末尾の一文もよかったし、雪雄の最後の言葉「きのね、か」に込められた思いに光乃のこれまでの生の軌跡が重なり合う。ただ、宮尾は「あの緊迫の柝の音ではじまる舞台に立ち、いま万雷の拍手を浴びている夢のなかに」とみずから解説しているのだが、光乃にとっては、そうではなく、雪雄との二人だけの思い出の言葉であったはずである。2022/09/09
AICHAN
47
図書館本。太平洋戦争が始まり雪雄と密かに結ばれた光乃は、空襲の下、東京じゅうを逃げ回り一命を得る。戦後、雪雄は芝居の仕事がなくなり荒れる。そんなとき光乃は雪雄の子を宿したことに気づく。立ち役の役者なら生涯一度はと憧れる「助六」役を雪雄は掴む。光乃は妊娠を雪雄に告げられぬまま苦しい日々を過ごす…。設定が実に緻密で具体的で、実話のようにしか思えなかった。檀ふみの解説を読むと、やはり事実を掘り起こした作品だった。作中の雪雄(堀越治雄・松川玄十郎)は11代目市川團十郎であり、光乃は堀越千代である。2022/05/31
Qちゃん
45
梨園の独特の世界の中での光乃の生き方には、なんとも切ない気持ちになった。。宮尾登美子さんの作品は、何度読んでも好き。2017/12/30
油すまし
41
長男の團十郎が光乃との結婚をどう発表するか悩んでいたときの次男新次郎(8代目松本幸四郎)と、三男優(2代目尾上松緑)の助言がよかった。團十郎が病に倒れてからの兄弟愛にも胸が熱くなったし、新次郎の妻の気配りや優しさ、光乃を支えた太郎しゅ、産婆のかね、光乃の人生のみならず登場人物それぞれの生き方、想いに引き付けられた。癇癪持ちで暴力もふるう團十郎、今の時代なら考えられないけれど、光乃の覚悟、著者の覚悟に圧倒されて読むうち、離れられない團十郎の魅力が伝わってくる。ヴェネツィアさんのレビューに深く感謝。2022/11/06
ラマジドンジュ
26
物語全体からくる迫力は然る事乍ら、最後のシーンは圧巻である。主人公の生き様そのものと言っても過言ではなかろう。2013/11/30