内容説明
華やかな奈良の都で、国人は大仏造営の作業に打ちこんでいた。ともに汗を流す仲間たちと友情を築いた。短き命を燃やす娘と、逢瀬を重ねた。薬草の知識で病める人びとを救い、日々を詩に詠む。彼は、確かな成長を遂げていた。数え切れぬほどの無名の男たちによって、鉱石に命が吹き込まれ、大仏は遂に完成した。そして、役目を終えた国人は―。静かな感動に包まれる、完結篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
165
奈良の大仏建立に全国から駆り出された、名もなき人足たちが主人公。「大仏の手の大きさが人の背丈の2倍。指の太さは人の胴回りと同じ」サイズ感が、リアルに迫る。盧舎那仏の頭に嵌め込む「螺髪(らほつ)」が千個。これを造るだけで、1年半…いかに、難事業だったかがよく分かった。「人足でも仏を造るのに命を打ち込んだなら、もうその人足は仏の一部になる」。今なお存在している大仏を、造った人が確かにいた、という感動が読み終わってもしばらく続いている。→ 続く2019/02/14
ケイ
125
国人らが働く場所は私にとってのほぼ地元だから手に取るようにわかった。そして、行基さまが大切にされていることも。近鉄奈良駅にある行基像とその周りに必ずおられる托鉢僧は昔から変わらない。国人自身には終始共感することは少なかったが、書かれたことはどれももっともだと頷ける。優れた人足を見出し大切にするのは、立派なものを建立するには大切なことだ。そして大仏の作業場で血が流れればそれは汚れの元となる。行基さまの志は立派でも、作り上げるのに失われたものも多い。しかしそれだけのものだからこそ、人は拝むのだろう。2020/12/11
レアル
97
これだけたくさんの人足の労働と犠牲によりできた大仏は、名もなき人達の魂のようにも思える。東大寺にはよく訪れるため、盧舎那仏も拝む機会があるが、これからは歴史的価値だけでなく、彼らの魂を見てこようと思う。2014/07/30
夜長月🌙@5/19文学フリマQ38
73
奈良の大仏を建立するという一大プロジェクトが一人足の目線から語られます。型作りから銅の流し込みや開眼、塗金など十分に考証された迫真の描写が続きます。しかし、主題は主人公の人生でありその生きざまと思うようにならない今世のはかなさが静かな余韻をもたらします。2021/04/12
Willie the Wildcat
73
大願成就の陰の立役者。やり通して生き抜く実直さ。名声でもなければ金でもない。家族、師、そして仲間への思い。様々な別れが、国人を人として成長させている感。大仏ではなく自分の仏、つまり心の平静。但し、同じ別れでも二見・日狭女の兄妹との別れは異質。聖人君子ではないが故の痛み。誰も国人を非難はできまい。敢えて挙げれば、時を経ても変わらぬ故郷が心の救いと考えるべきか。自然、そして人の温かみが差別・区別無く帰郷者を迎える。一方、三国がその対極であり、都の本質の一面を語っている気がしてならない。2016/07/10