内容説明
歯を食いしばり一日を過ごす。星を数える間もなく眠りにつく。都に献上する銅をつくるため、若き国人は懸命に働いた。優しき相棒、黒虫。情熱的な僧、景信。忘れられぬ出会いがあった。そしてあの日、青年は奈良へ旅立った。大仏の造営の命を受けて。生きて帰れるかは神仏のみが知る。そんな時代だ。天平の世に生きる男と女を、作家・帚木蓬生が熱き想いで刻みつけた、大河ロマン。
著者等紹介
帚木蓬生[ハハキギホウセイ]
1947(昭和22)年、福岡県生れ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。2年で退識して九州大学医学部に学び、現在は精神科医。’79年に『白い夏の墓標』を発表、サスペンスの舞台を海外に据えた物語は直木賞候補となった。’93(平成5)年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、’97年『逃亡』で柴田錬三郎賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鉄之助
167
奈良の大仏鋳造に携わった、名もなき工人、労役に駆り出された庶民の壮大なドラマ。原材料となる棹銅の製作から輸送…など、の苦労が細部に渡って語られ、なかなか大仏鋳造にたどり着けなかったが、上巻の最終盤で初鋳造。「大蛇の鳴き声」のような音を立てながら溶けた銅が流し込まれる。下巻が楽しみ。2019/02/12
ケイ
129
山口県の長門では銅がとれた。奈良の大仏建立のためにそこの男たちが奈良に送られる。長門で主人公の国人の周りにいた人達が奈良への道のりにいなくなってしまい、上巻では前半に比べ後半になってから些か読む気力が削がれた。国人になついて仕事をしていた黒虫とのやりとりが実に良かったからなあ。冒頭で、巷に溢れる銅の価値が下がり、それを大仏に流し込むという考えには驚いた 2020/12/10
レアル
103
奈良・東大寺の大仏建立の話。長門周防地方で過酷な労働の中、質の良い棹銅を産出する国人達。そして平城京までの長い道のりを経て、建立に携わる。こちらの巻では棹銅がどのようにして作られ、都に運ばれたかがメイン。そして為政者ではなく、一人の人足目線で描いている。大仏建立は始まったばかり。都の大きさや出来事に驚きっぱなしの国人の成長と活躍に期待。2014/07/28
さと
97
帚木氏の作品を読むたびに感じるのは、望むと望まざるとに関わらず、与えられた運命をただひたすらに生きる者たちの姿。人生の中に選択の自由や権利を与えられない中でも、そこに意味を見出していく姿、与えられた環境をどう受け止めて幸せに転じるのか その高尚な生き様は健在。御仏の建立に誘われた清き魂たちがどう高みへと誘われるのか楽しみだ。2018/05/17
夜長月🌙@5/19文学フリマQ38
89
精神科医でもあり、あの「閉鎖病棟」を書かれた帚木さんが奈良の大仏作りの長編を手掛けていたとはとても意外でした。仏教とは何のつながりもなさそうな苛酷な仕事をする鉱夫が主人公です。その村にいる僧が主人公の精神的支柱となっていて印象的です。辛い事ばかりの毎日ですがその中に小さな光を見つけようとする生き方に惹かれます。「自分が信頼し頼るべきは自分」を体現してる壮大なる幕開けの上巻でした。2021/04/11