内容説明
にがい思い出だった。若かったとはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身篭っていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという…。表題作「時雨みち」をはじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927‐1997。山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。’71(昭和46)年、「溟い海」でオール読物新人賞を、’73年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
485
【海坂藩城下町 第6回読書の集い「冬」】暗い、クライ、くらいのである。そのくせ、各短編における「起承転結」の展開がお見事なのである。むしろ「結」の部分は端折って、読者に丸投げ、あとは自分で考えてね〜とその場に取り残されることになるのである。寂しい、とっても寂しい…でもクセになる。この時期に読めてよかった。2021/01/25
yoshida
166
11編の短編からなる短編集。共通するのは男女の心の陰影。やるせない作品が中心。そんな中、「山桜」が読了感が爽やかで印象深かったです。「山桜」では浦井家の娘の野江が、回り道をしながら幸せに辿り着く迄を描く。夫が急逝した野江は手塚弥一郎との縁談と、磯村の縁談が来る。手塚が剣の遣い手なため粗暴な気がし、磯村の家へ嫁ぐ野江。野江を待っていたのは、野江を出戻りと扱う夫と異様な家風だった。手塚と野江の邂逅。手塚の刃傷沙汰。手塚を嘲る磯村。野江は離縁し手塚の家を訪れる。人は添わねば分からない。現代も共通して言える哀切。2016/10/01
ふじさん
107
この短編集で好きなのは、「滴る汗」、「幼い声」、「亭主の仲間」、「時雨みち」。人生はやり直しがきかず、今の避けようもない現実を受け止め生きるしかない。この何とも言えないやるせなさ、男女の心の陰影や葛藤が端正な文体で描かれていて心惹かれる。また、映画にもなった「山桜」、男女の思い通りに行かない人生を巧みに描いて良かった。藤沢周平の作品の映画化としては、許せる内容で見る価値あり。 2021/09/09
じいじ
100
俄かに読み返したくなった、藤沢周平の【山桜】。7年ぶり、たった22頁の短篇なのだが、やっぱり期待どおりです。親の決めた二度の結婚が不運なことになっても、ひた向きに生きる女性・野江が健気で素敵です。三度目の正直か、ようやく訪れそうな幸せが垣間見えるラストが堪らなく良いです。何度でも読み返したい短篇集です。2021/11/14
タイ子
93
藤沢作品、何冊読もうといいものは飽きない、マンネリ化しない、その都度の感動が新鮮。11作の短編集。中でも「山桜」の儚げな、でも美しく咲く風景が目に浮かぶよう。と、思ったら2008年に映画化されてたんだ。読了後、ネットで映像を少し見ただけでジーンとくる。幸せへの遠回り人生、いいですね。ハッピーエンドで終らないのが多い藤沢作品の中でたまに良かったねぇって主人公に言ってあげたくなるのがあってこれもその一つ。「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」これらの続きは想像に任せる他ない。これが藤沢作品の真骨頂なのだから。2022/07/31