内容説明
愛人との暮しを綴って逝った檀一雄。その17回忌も過ぎた頃、妻である私のもとを訪ねる人があった。その方に私は、私の見てきた檀のことをぽつぽつと語り始めた。けれど、それを切掛けに初めて遺作『火宅の人』を通読した私は、作中で描かれた自分の姿に、思わず胸の中で声を上げた。「それは違います、そんなことを思っていたのですか」と―。「作家の妻」30年の愛の痛みと真実。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
546
とてつもない力作かつ秀作を読み終えた感動に浸っている。いったいこの作品の作者は誰なのか。解説者はそれを「四人称」と呼ぶ。わたし自身は同じ女性として妻のヨソ子としての視点から読むことが多かった。ヨソ子さんは当時の女性には稀な才女。その彼女がくぐり抜けた試練と屈辱を思うと胸がふさぐ。同時に「作家・檀一雄によって作られたヨソ子像」に当時反論できなかった悔しさもしかと受け止めた。それらを見事に体現したのが、我らがノンフィクション作家、沢木耕太郎。この組み合わせなくしてこの名著は生まれなかったと思うと誠に感慨深い。2021/10/03
じいじ
91
実在する「作家の妻の30年」を書いた力作を読み終えた。その感動の余韻は、まだ続いている。まず、夫への愛と痛みと真実を語ることを承諾された檀夫人に敬意を表したい。同時に、執筆を決意し感動の本に仕上げた沢木耕太郎氏に感謝をしたい。小説『火宅の人』の主題は夫の不倫、夫がが或る女性と深い仲になってしまう。妻は「僕は○○さんと事を起こしたからね」と藪から棒に告げられる。凄まじい妻の一念が綴られた今作は、今年度のマイベストです。『火宅の人』を読んだ後、もう一度読み返したくなるだろう。2020/12/16
kinkin
72
妻から見た彼の生と死に至るまでが書かれている。これは著者の沢木耕太郎氏がインタビューを基に構成されたものですべてが必ずしも真実か否かはわからない。感じたのは愛人の存在を知りながらもそれを認めつつ我が子を育てるという苦労話としては終わっていない。最後は彼女が檀一雄という人物に寄り添うことで結末を迎えることになる。性格の不一致、すれ違い、価値観の違いという理由で離婚する夫婦と比較することは間違いだと感じる。しかし本書に書かれている夫婦とその家族というありかたが正しくないとは言い切れないと思った。2015/03/20
遥かなる想い
71
沢木耕太郎の数ある名作の中で、本書は不作の部類であると私は思う。 檀一雄が書き込めていない、気がする。2010/05/08
ふじさん
65
この作品は、一年間、檀ヨソ子夫人にインタビューを重ねた著者が、妻の視点に立って「火宅の人」の作家檀一雄の真の姿を描き出すという手法で書かれた。独特の視点で書かれた作品で沢木の作家の力量がよく分かった。作家の妻として生きたヨソ子夫人の30年の愛と痛みの葛藤の日々が心に迫ってくる。最終章において、夫人が、檀一雄とともに過ごした人生を、その間に味わった痛苦ともに、すべて肯定したことで心が癒された。まさに檀一雄の鎮魂歌だ。 2020/08/19