内容説明
父との深刻な対立、妹への運命的な愛、信仰と農民運動、エスペラントと詩、そして科学と童話…。短い生涯を懸命に生きた岩手花巻の天才・宮沢賢治の半生。近代日本の夢と苦悩、愛と絶望を乗せ夜汽車は理想郷目指してひた走る―。長年にわたる熱い思いをこめ、爆笑と感動の中に新たな賢治像を描き出した、戯曲文学の傑作。架空インタヴュー「賢治と啄木に聞く」を併せて収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
224
イーハトーボといい列車といい、タイトルからして、もうひたすらに井上ひさしが敬愛してやまない郷土の大詩人、宮沢賢治への熱烈なまでのオマージュである。賢治が日蓮宗信者であることが強調されるところは、やや私の持つイメージとは齟齬があるのだが、この劇では詩人や童話作家としての賢治ではなく、思想家としての賢治に主眼が置かれているからだろう。「デクノボー」の日蓮にこそ魅かれるとする賢治像は、確かな説得力を持っている。劇の前半はコミカルに進行し、後半では社会批判に重点を移すが、エンディングは限りなく哀切に満ちた光景だ。2015/02/04
東谷くまみ
40
賢治ってイタい人だったんだろうなぁ。本人は至って真面目にまっすぐ純粋な気持ちでやってるんだろうけど、どこかズレてるんだよね。お金持ちのボンボンで夢見がちの理想至上主義者🤔それでも賢治の農民を思う気持ちに絶対嘘はなかったし、底抜けのお人好しで本当に優しい人だったんだと思う。幼少期から弱い体、どうやっても超えられない父、頑張っても認めてもらえない羅須地人の会の活動…ずっと“負け”続けている人生。でも「自分は弱い」って知っている人って私は信頼できる人だと思うし、尊敬する。だから私は賢治が好きなんだと思う。→2021/07/12
syota
34
井上ひさしの宮沢賢治に対する傾倒ぶりが伺える戯曲。賢治や父母、妹トシなど実在の人物はもちろん、西根山の山男や銀河鉄道の車掌など童話の作中人物も登場し、現実と幻想とが交錯する舞台が繰り広げられる。井上作品らしい笑いもあって、賢治ファンなら間違いなく楽しめると思う。特に花巻署の刑事と賢治とのやりとりは圧巻だ。農村にユートピアをつくると意気込む賢治と、苦しい農民の実態を知らないおぼっちゃんだと両断する農民出身の刑事との対決を通じて、賢治の純粋さと危うさの両面が浮かび上がってくる。できれば一度舞台を観てみたい。2020/11/10
マツユキ
20
宮沢賢治。絵本という形で、ここ数年、よく読んでいます。穏やかに、怒り、悲しんでいる人というイメージ。この作品は戯曲。東京へ向かう列車に中の出来事、そして、東京での出来事。あまり宮沢賢治の経歴を知らないんですが、分かりやすかったです。父親との対立、妹への愛情、信仰と農民運動…。日蓮宗の事もよく分からないんですが、デクノボーの日蓮という言葉が印象に残りました。賢治の欠点も含めて、その生き方に興味を惹かれます。架空インタビューでは、石川啄木も登場。世代は違うけど、中学が一緒だったんだ。正反対ね。啄木も読もう。2019/12/30
マカロニ マカロン
18
個人の感想です:B+。本作では賢治の父政次郎の存在が大きな役割を果たしており、その点で『銀河鉄道の父』(門井慶喜)に共通する部分がある。自分の使う金を稼げない賢治に金を送り、賢治が日蓮宗国柱会に傾倒すると、引き留めようと努めるが強制はしない。真宗と日蓮宗論争、肉食の是非の論争などとてもユーモアたっぷりで面白かった。そして、何より本作には賢治の作品から『グスコーブドリ』、『なめとこ山』『風の又三郎』『銀河鉄道』等など様々な登場人物が列車に乗り合わせ、存在感をアピールすることが嬉しい。舞台を見たい。2020/08/01
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- 和書
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