感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
95
やっぱり周五郎はいいですねぇ。面白いです。泣かせてくれます、ほんのリ笑わせてくれます。趣の異なる11編の短篇集。全編感想を書きたいほど粒ぞろいです。表題作【花匂う】が爽やかで好きです。悲恋の淵から25年の歳月が過ぎ…二人の想いが叶う。その成就の陰には親友の友情があった。胸にじんと来る恋物語、感動作です。周五郎の人物描写は味深い。とりわけ女性の描写は、藤沢周平に較べると無骨なのだが色っぽく著者独特の味を感じます。心に残る短篇が満載のおススメの一冊です。2017/01/08
優希
50
面白かったです。人生の深いところをついていて、情感溢れる短編集でした。長編にしたらどのような作品になるのか気になる作品ばかりです。2021/12/26
キムチ27
45
山本作品に多い「不条理」の世界を描く短編が主になっている。切なく、身をよじる想いの情景が広がって行く。そこに香る花・・そして雨。私にとり全くワンパターンではなく、永遠に読んで行きたい「時間」に触れさせてくれる。一番よかったのは表題の「花匂う」 周五郎は好んで料理茶屋での話し合いの場面を用いているけれど、庶民には使える値段だったのだろうか・・武士が好んで使っている事は分かるけど。2020/06/27
June
28
昔の人の、親の仇討ち、主君への忠義、男女の一途な想いは、裏切る人間もいる中で、長い年月を経ても貫き通し時に命をも厭わない、そこまでの強さ、覚悟。それは時代小説でしか味わえない魅力だ。一見役立たずのような者が実は思慮深いキレ者だったというのが、幾人か出てきて人間の奥行きを感じた。「花匂う」では、直弥が多津に言った−それだけの時間が必要だった、通り過ぎた出来事に無駄なことは何もない−そんな考え方と十五年の時の流れに胸が熱くなった。「明暗嫁問答」は滑稽なリズムある展開と機知に富んだ切返しがとても楽しかった。2017/01/16
シュラフ
26
山本周五郎作品の魅了とは作品の根底にある"登場人物たちのまじめな生き方"ではなかろうかと思う。「花匂う」の直弥も不器用だけれども一生懸命に生きている。武家の三男ゆえに・・・そして養子の口もなく・・・ただ毎日を風土資料を収集して過ごす。好きだった隣家の多津に想いを伝えることもできない。だが、そんな直弥に転機が訪れる・・・。不遇の日々を悶々としながらも、でもまじめに生きている。時代も違うし、立場も違うのだが、「俺も同じだよな・・・」と思ってしまう。登場人物たちへの深い感情移入をおぼえてしまう。2015/03/31