出版社内容情報
あと百日の命と宣告された武士が、己れを醜く装って師の家の安泰と愛人の幸福をはかろうとする苦渋の心情を描いた表題作など10編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
金吾
33
山本周五郎さんの考える人としての美しさが伝わります。「月の松山」は本当にこれでいいのだろうかと思いましたが、山本さんらしい作品だと思いました。「松林蝙也」は良かったです。2022/04/06
のびすけ
32
10編の短編集。「初蕾」がとてもよかった。事情を伏せて梶井家の子供の世話をするお民。その事情を実は知りつつ、お民を優しく受け入れる梶井家の隠居夫婦。姑のはまがお民に語りかける愛情あふれる言葉がとても温かい。ヒロインたちが魅力的な「壱両千両」「追いついた夢」「月の松山」も逸品。滑稽もの「おたは嫌いだ」のきっちりしてて厳しい姉すみ江のキャラも好き。表題作「月の松山」は、余命宣告された孝也が桂と泰二郎に対してとる行動の真意が感動的でした。2024/03/25
tengen
32
すれ違った男女の悲哀☆若かりし松林蝙也の武勇伝☆面作り師の執念と悟り☆俊恵のたどり着いた答え☆旅立った武士・梶井半之助、そして子を宿したあばずれお民。宮沢りえキャストのドラマを思い出した☆貧しい中で清々しく生きる元庄内藩勘定方・杉田千之助。およねを救う。☆貧しさから和助の囲い者になる覚悟のおけい、長年裏金を貯め込んだ和助。夢が叶うのはどちら。☆自らの死期を知った孝也。愛しい人たちのために死に様を求め苦悩する☆死に直面して初めて悟る自身の気持ち☆昭和初期舞台のハードボイルドな一編2022/09/16
シンヤ
24
10の短編小説。「初蕾」では「 ごらんなさい、この梅にはまた蕾がふくらみかけていますよ、去年の花の散ったことは忘れたように、どの枝も初めて花を咲かせるような新しさで、活き活きと蕾をふくらませています、帰ってくる半之助にとって自分が初蕾であるように、あなたのかんがえることはそれだけです。女にとってはどんな義理よりも夫婦の愛というものが大切なのですよ」…深いです✨「松林蝙也」は面白い。「追いついた夢」はこんなことがおこるなんて本当に夢のようだ…と思える話。山本周五郎はやはり良いですね。2017/12/20
shizuka
10
『初蕾』花がさかりまでのものなら、散るまで好きにいきるだけさ。と息まいていた女性が成長してゆくさま。『壱両千両』貧乏人の弱さは肝の据わらないところだ。だから弱い。『おたは嫌いだ』は滑稽もの。しかし門太は我儘すぎやしないかい?『月の松山』不治の病にかかった主人公が、憎まれる演技をして親友と許嫁を結ぶ友情もの。最後に本意が分かるのですっきりするが、この手法の話はいつもどきどき。憎まれながら死んで行く覚悟というのは、自己犠牲の最たるもの。なかなかできることではない。最後現代劇1編で、洒脱な周五郎を楽しもう。2013/11/27